第44章 煙に霞む屋敷廓
(これ…何の匂い…?)
「ここはワシの屋敷ではなく、廓や外へ行く者を住まわせる処だ」
くくくくく……
ねっとりと黒い腹の底からの笑い声で、
男が瑠璃を振り返る。
虫酸の走りそうな ねっとりとした笑みを見せている男には関心も寄せず、瑠璃はどんどん強くなる薫りに混じる何か、他の匂いを探す。
京の旧家に育ち、香の薫りに親しんでいた瑠璃は、この屋敷内に充満する、香 に混じって、薫る物がある事に気づいた。
(白檀、丁字…あと、香 じゃなくて、
煙い…それに…酸えたような……)
考えていると、奥の方から女の笑い声や、
大きな話し声が聞こえてきた。
「⁉︎」
廊下を曲がって瑠璃が目にしたのはーー……