第2章 私の隣のお姫様
名前の"憧れ"であり"コンプレックス"である遥。
そんな遥を親友だと思い接している名前だが、どうしても許せない事がひとつだけ、ある。
それは"名前の想い人を略奪する癖がある"と言うことだ。
略奪、とは言っても名前が片想いをして、それに気づいた遥がふらりとその片想い相手に近づき自分に惚れさせる……と言うものだ。
初めて略奪されたのは二人が幼稚園の年長の時だった。隣の組の男の子がやけに名前に話しかけ手を繋いだり一緒に遊んだり。名前も彼の事が好きだった。
『二人ともラブラブね』
なんて先生達が笑っていた。しかし、遥だけが笑っていなかった。それからの彼女の行動は早かった。今まで彼に興味など示していなかった筈なのに、擦り寄り手を繋ぎしまいには頬にキスを落とした。幼稚園一可愛いと言われていた遥。彼は直ぐに彼女の事を好きになった。取り残された名前はただべそをかくしか出来なかった。
その次は小学校一年年の時。その次は二年生、その次の時は四年生…。小さい恋から大きな恋まで、全て遥が摘み取ってしまった。
別に付き合っている訳でもない。想いを告げた訳でもない。
だから略奪というのは可笑しい。だがしかし、何度も何度もその行為をされてきた名前にさ腹立たしく許されない行為であり……略奪、と言う乱暴な言い方になってしまうのだ。
腹立たしい。嫌い。許さない。
そう思う反面、心の中で、
ーーいや、想いを伝えてもない私が恨むなんて可笑しいでしょ。それに……想いを伝えたとしても、遥にかなうはずなんてない。
弱虫で臆病な名前が、そう卑屈に笑い、そして嘆く。
結局の所、一番悪いのは何も行動を起こさない自分自身だと言うことはよく分かっていた。
行動に移さないで、嘆くだけ。何故嘆くだけなのか?自信がないからだ。
ーー私が、私、がっ……遥みたいにっ…なれたら。
そう何度思った事が。
所詮、それはただの願望。
所詮、それはただの儚い願い。
所詮、それはただの絵空事。
所詮、それはただのーー
弱者の嘆きだ。