第2章 私の隣のお姫様
それから名前は遥と言う人物を、少し離れた所で見ることにした。そうしてみて、分かった。確かに彼女の言った通り、楽しければ笑っているし、つまらない時は無表情になったいた。それは男女問わずだ。
しかし、話をして共感や楽しみを共有したい女子には遥のその態度はいいものでないのだろう。
だから名前は言ってみた。
『せめて女子と話す時はつまらないと思ってもにこにこしてなよ』
ーーと。すると遥は大きいくて綺麗な目を丸くし、軽く溜め息を吐き、形のいい唇をそっと開いた。
『嫌だよ。そんなの疲れるだけじゃん。楽しいから笑う、つまんないなら無表情、ムカついたら怒る、悲しければ泣く。私は当たり前の事してるだけだし』
そう言って長く艶のある黒髪を鬱陶しげに髪で払った。
さらり、と。とても綺麗な黒髪が、風に靡いてさらさらと揺れる。陽の光を吸ったその髪は、一本一本がとても輝いて見えた。
ーーずるいなぁ…。
と、名前は思った。しかしそれと同時に、
ーー羨ましいなぁ、とも思った。
容姿が良くて、頭も良くて、自分に自信があって、自分を貫いて、誰にも媚びず、自分の思うように生きる。
全て自分とは逆だ、と名前は乾いた笑いを漏らしながら思った。全部。全部全部全部。名前が欲しいものだった。見目麗しい容姿も、頭脳も、自信も、媚びずに生きる強さもーー全部、名前が欲しいものだった。
容姿は普通。頭脳の方はと言えば必死で勉強して学年順位でやっと真ん中辺りに食い組む程度。自信がないせいで他者の顔色を気にしてヘラヘラと愛想笑いを浮かべ周りの意見に合わせる。
私と遥は真逆だ、と名前は思った。
つかつかとローファーを鳴らしながら凛と背筋を伸ばし歩く親友の背中を、黙って見つめる。それから数日して、遥に話しかける者は少なくなった。
しかしそれを遥本人は全く気にして居ないようだった。何故平気なのかと、本人に聞いてみた。
『だって私の世界には名前しか居ないもの』
耳触りのいい心地いい声が、一寸の迷いもなくそう言葉を紡いだ。
勝てないな、と名前は思った。