第6章 距離感
「えっと、どうしたの?」声が上擦る。泳ぎそうになる目を細める事で何とか誤魔化した。
「いや、最近財前とどうなんかなって思て」
「財前くんと?最近は顔を合わせてないけど……」
遥との一件が会ってから、名前はなるべく異性に近づかないようにしていた。それは白石にも、財前にもそうだった。変に自分が話しかけて、また遥が見せつけるようにあんな事をしてくる可能性があるのであれば、また嫌悪してしまう。出来れば遥とは仲のいい幼馴染でいたいのだ。嫌悪や嫉妬は、したくない。
そんなことを思いつつ、名前は白石の言葉に引っかかり僅かに眉を寄せた。
ーーどうなんかな、ってどういう意味だろう…?
なんだか含みのある聞き方が気になってしまい、白石が何か言葉を掛けてきているが気もそぞろな相槌しか打てない。
ーーもしかして、白石くんは私と財前くんがいい雰囲気とか…そんな風に思ってるのかな?
ふとそんな考えに至ると同時に、ズンと心が重くなり、そして痛んだ。白石に話しかける事を避けてはいたが、思いを断ち切った訳ではない。正直、今さっきだって話しかけられて心底嬉しかった。それなのに、自分と他の男子との恋の匂いを感じ聞いてきただけだなんて。ずきり、と心臓が痛む。
ーー結局の所、私が頑張ったとしても、白石くんの目にはとまらない…友達どまりの存在になるんだろうな。
まだ何もしていないクセに、名前はそう悲観的に考え、一人で勝手に傷ついた。しかしその時、ふと財前の言葉を思い出した。
『臆病者、って言うんすよ』
名前の目を真っ直ぐ見て、一切の迷いなく紡がれたその言葉が痛いほ思い出される。机に置かれていた手を無意識のうちにぐっと握りしめた。
「白石くん、私はーー」
「せや、苗字さんにお願いがあるんやった」
「…お願い?」
名前の言葉と被さった白石の言葉は、普段よりも僅かにトーンが高く感じられた。お願い、とは?と眉を寄せる名前に周囲を確認した後、そっと顔を寄せ、自身の口の横に手を添える白石にドキリとする。