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《R18》知らないんでしょ《庭球》

第2章 私の隣のお姫様



「ねぇ、名前、聞いてる?」
 不意にそんな声が耳に滑り込んできた。
 はっと我に返り視線をそちらへとやれば、大きく形のいい、そして綺麗な目が名前を見つめていた。

「その顔……聞いてなかったでしょ?」
「あ、あはは……ごめん」
「も~…。ほんっとに名前ってばのほほんとしてるんだから。私が居ないと駄目だね、本当に!」
「あはは…ごめんて」

 わしゃわしゃと頭を撫で回してくる遥に苦笑を浮かべつつ、名前は謝罪を述べた。

 ーーこんな、嫌な考え持ってて、ごめんね。

 当然、その謝罪は遥の耳にも心にも届かない。ひっそりとした、謝罪だ。
 そんなとき、ふと遥の首元に視線がいった。いつも付けている淡い水色のスカーフ。それが少しよれている事が気になったのだ。

「スカーフ、ちょっとよれてきちゃってるね?」
「ん?あー、そうだね。これ使って結構長いから…そろそろ変えなきゃ」
「やっぱりまだそれないと喉きつい?」
「んー…そうだねぇ、少しでも空気が触れたりすると喉が苦しくなるから、外せないかな」

 困った顔をしながら、白くて綺麗な手で首元のスカーフを撫でる。

「なら、今度私がプレゼントするよ。可愛いスカーフ売ってるとこ見つけたんだ」
「え?!名前がプレゼントしてくれるの!?やった♡持つべき者は親友よね~♡大好き♡」

 満面の笑みを浮かべながらそう言ってくる名前に、同じように笑みを返す。
 想い人を略奪する遥は憎くて嫌いだが、こうして素直に感情を顕にしてくれる遥のことが、名前は大好きなのだ。
 つまり、男が絡まなければ私は遥の事をずっと好きで居られる。名前はそう思っていたし、疑いもしなかった。



 窓の向こう側で、ひらりと桜が踊っていた。
 ミルクティー色の髪の毛の少年の肩にそれが落ちる。

「なんやええ事ありそうな気ぃするわ」

 肩に落ちたそれを指先で摘みながら、少年は自転車を漕ぐ足を少しだけ速めた。

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