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《R18》知らないんでしょ《庭球》

第5章 スカーフ



 すっ、と出した右手が空を切る。
 ヒュッ、と音がするのと同時に遥の目が大きく見開かれていくのが分かった。彼女の頬に、名前の右手がぶつかるまで僅か数ミリで、ピタリと止まった。
 ギリギリの所で止まった名前の右手に、遥は目を見開き固まったまま動けないでいる。

「よくもっ…よくも、そんな事ズケズケ言えたね?!自分からニコニコ白石くんに近づいて、その気になるような言動して!それなのにお邪魔虫!?白石くんを馬鹿にし過ぎだよ!!」
「ちょ…な、なにマジになってんのよ…。そんなに怒らなくても…」
「怒るよ!…っ、怒るに決まってるでしょ!?私が白石くんに惚れてたって?それを知っててなんであんな言動とったの?!…それに、それにっ…今でも私は白石くんに惚れてるよ!私からしたらアンタの方がお邪魔虫よ!!」

 今まで出した事もないような大きな声で、そう叫んだ。気づけば大粒の涙がぼろぽろと流れていたが、そんな事気にする余裕はなかった。
 つらつらと紡がれた"彼女にとってお邪魔虫な男"は、名前にとって"淡い恋心"を寄せている相手なのだ。それなのに自分のしている事は棚にあげ、あんなふうに馬鹿にして、挙句の果てにこちらの恋心に気づいていた…と。
 今まで遥に対して抱いていたドロドロとした汚い感情が、彼女の言動により溢れてしまった。溢れてしまったそれは、抑えようとしても抑えられない。
 ぼろぼろと大粒の涙を流し、彼女を睨みつけ怒りを顕にしながら名前は大きく口を開いた。

「なんで!なんでいつもっ…こんな事するの…?私が気になった人や、好きな人…いっつもその気にさせて、そのまま…。ねぇ、何がしたいの?私が悔しがるのを見たいの…?」
「そ、そんな訳ないでしょ!?なんで私がそんな悪趣味な事っ…。わ、私はただアンタにお似合いの奴かどうかを…」
「うるさい!!!!」
「っ…!」

 ピシャリ、と。大きな声で狼狽える遥の言葉をねじ伏せた。びくりと体を跳ね上げさせた彼女は、初めて見る幼なじみの剣幕に怯え、そして動揺した。
 ゆらゆらと瞳を揺らしながら、縋るように名前へと手を伸ばす。

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