第5章 スカーフ
クッションへと腰を下ろし、テーブルを挟んで向かい合わせに座ると何故か遥がじっと顔を見つめてきた。
あまりにもじっと見つめてくるものだから、どことなく居心地の悪さを感じ、そっと口を開いた。
「なに、どうしたの?そんなに見つめられると恥ずかしいんだけど…」
「いや…二人きり久しぶりな感じがして。最近なんだかんだお邪魔虫が私の周りや、アンタの所にも居たからさ」嘆息混じりに言葉を吐いた遥に、眉を寄せ首を傾げ問う。
「お邪魔虫?何?誰のこと?」
「言わなきゃ分かんない?蔵ノ介よ、蔵ノ介。ちょーっと話しかけただけなのにその気になって私の周りうろちょろするのよ。そのせいでアンタと話す時間がぐんと減って迷惑だわ」
「……は?」
ーー何言ってるんだろう、この子。
ぽかんと空いた口をそのままに、名前はそんな事を思った。目の前にいる彼女が発した言葉を脳内で反芻させると、意味が分からなかった。
ーー"お邪魔虫"なんて言葉、なんでアンタが言える立場になってるのよっ…!
そう心中で叫んだ瞬間、ぶわりと怒りが全身を包み込んだ。抑えなければ駄目だ、だって今日は遥の誕生日なんだから。そう思うのに、怒りは静まるどころが増していくばかりだ。
膝の上に置いた手をギュッと握りしめて、弱く唇を噛み締めた。顔が自然と下がっていき、机に置かれた美味しそうな料理達をぼんやりと見つめる。
黙り込んだ名前の異変に気づいたのか「ちょっと、なんで黙るのよ」と遥が口を開いた。
「…ごめ、なんでもない」
喉奥から口へと飛び出しそうであった暴言を何とか飲み込んで、そう呟くと「ふーん」とさして興味なさそうな返事が飛んできた。そして彼女の口は次の言葉を紡ぎ始める。
「アンタ、蔵ノ介に惚れてたでしょ。やめときなあんなすぐ騙される奴。アンタにはきっといい男現れるわよ!そうねー…例えば黒髪で~…」
遥が満面の笑みで手を叩き、楽しげにはじめたの同時にーーぷつん、と何かが切れる音がした。
机に片手をついて、腰をあげる。上体を遥に寄せると、彼女は「な、何よ」とほんのり頬を赤く染めた。