第2章 私の隣のお姫様
「それは遥に皆見惚れてるんだって」
「は~~~~?こっちは気合い入れてノリツッコミしてるんだから見惚れてないで笑うなり野次るなりしてほしいよ、こっちは」
「まぁ、気持ちは分かるよ」
テーブルに突っ伏し項垂れる遥の頭を軽く撫でれば、彼女は嬉しそうに笑いその手に擦り寄った。
遥は美人だ。10人に聞いて10人がそう答えるだろう。しかし、美人すぎるが故にどこか近づき難いのか名前以外に親しい友人は居なかった。
しかし原因はそれだけではない。
『楠さんて…私達と話してる時つまらなそうやんな?』
そうひそひそと話しているのを、名前は一度だけ耳にした事がある。その時次の授業の準備をしていた名前は僅かに目を見開き耳を疑った。
あの老若男女問わず愛想のいい遥が?何かの間違いでは?
そんな事を思いながら振り向きたい気持ちをぐっと堪え、そのままの体制で耳を澄ます。嫌な汗が背中を伝った。
『分かるわー。愛想いい時って苗字さんが一緒の時だけやんな?』
『そーそー。なんか話しかけてすんません、ってこっちが思うてまうわ~』
ーー遥が、愛想悪い?私が居る時だけ、愛想が良い?……そんな事、初めて知った。
ちらり、と視線を上げる。視線の先ーー黒板の前で女子二人と仲良さげに話している遥が居る。愛想が悪いようには、とても見えなかった。
何かの勘違いでは無いだろうか?それとも、自分が同じ空間に居るから、愛想がいいのだろうか?
何にせよ、友人がよく思われていないのはいい気分ではない。遠回しに注意してみよう、と心に決めその日はいつもと変わらぬ日常を過ごした。
その次の日の事だ。朝登校途中で遠回しに、クラスメイト達への対応がどんなものなのか、それとなく聞いてみた。
『どんな…って言われても。別に普通だよ。つまらないな、って思ったら無表情になるし、楽しかったら笑うし。アンタもそうでしょ?』
あっけらかんと答える遥に名前は返す言葉が見つからなかった。あまりにも当たり前のように答えたから、毒気を抜かれてしまったのだ。