第5章 スカーフ
店内奥へと足を進めると、色んなスカーフが並んでいた。
色も柄も派手な物から、色も柄も地味な物まで。色んなスカーフが並んでいる。それを目のして、名前の目が大きく見開き、きらきらと輝いた。色とりどりのスカーフが並んでいる光景に、心が踊る。
「は、端から端まで見てもいい?」
「いっすよ、別に」
「ありがとう!…じゃあ、あそこから…」
初めての店に、色とりどりのスカーフ、そして生意気な後輩が横に居る事。それら全てが名前を、日常の中のちょっとした非現実感へと導く。
頬にほんのりと赤色を滲ませながら、スカーフが置かれている始まりの場所まで辿り着いた。
それから数十分経った頃。名前は眉を寄せ皺を作り、財前は先程まで繋いでいた手に寂しさを感じながらそっと溜め息を吐いた。
ふたつのスカーフを手にしか名前が、ぶつぶつと言い始めてから数分が経った。どうやら手にしているふたつのスカーフ、どちらにしようか悩んでいるらしい。
「…いつまで悩んでるんすか」
痺れを切らせた財前が名前にそう言葉を投げると、はっと我に返ったように顔をあげた。店内の時計へと視線を流して、ギョッとした表情をうかべ「う、嘘…?!」と狼狽えた。
「もうこんなに時間経ってたの?!ごめんね財前くん!悩みすぎちゃって……」
「これとこれで悩んどるんですよね?」ふたつのスカーフにとん、とん、と指の腹で触れながら聞いた財前に、名前は「う、うん」と頷いた。
「せやったら、俺、これ買ってあの人にプレゼントしますわ。
で、名前先輩はそっちのスカーフプレゼントしたらどうですか?」
「え、財前くんがこれを買うの?…悩んでたからありがたいけど、そんなに安い物じゃないよ…?だから止めておいた方がーーあ!」
「…このぐらいっすか。ええですよ、別に。今日は色々ええ事があったんで安いくらいやわ」
「…?何かいい事あったの?」
僅かに首を傾げそう尋ねた名前に、財前は嘆息を吐いた後不機嫌そうに唇を尖らせた。
「…俺先に買ってきますわ」
「あっ!待って、私も買うから!」
大股で歩きレジへと向かう財前の後を、名前は小走りで追うのであった。