第5章 スカーフ
二人が会話を始めたその時から、何も言わず、ただ黙ってその場に居た財前が痺れを切らしたように口を開いた。
「ちゃいますよ。名前先輩のおんがーー」
「そうだよ」
財前の言葉を遮るように、凛とした名前の声が飛び出した。
驚いた様子の財前の視線が、勢いよく自身に注がれたのが分かったが、名前は気にせず言葉を続けた。
「もうすぐ遥の誕生日でね、一人で買い物に来たんだけどいつも行ってるお店が潰れちゃってて…。それで、さっき財前くんが言ってた通り途中でばったり彼と会ってスカーフが置いてあるお店知ってるって言うから…ここまで案内してくれたんだ。けど、まさか白石くんと此処で会うとは思わなかったな!。白石くんは、よくこのお店来るの?」
にっこりと、笑みを浮かべながら問う名前に、白石は目を僅かに見開いた後至極嬉しそうに微笑んだ。
「あんまりは来おへんなぁ。姉が居るんやけど、その姉がよくここに来るんよ。ほんで、その時何故か俺も連れてくんねん。なんでやろな?」
「あはは、そうなんだ!うーん…白石くんが自慢の弟だから、一緒にお出掛けしたいんじゃないかな?」
「ふはっ…苗字さんお世辞上手いなぁ。けど、おおきに。……にしても、そうなんや、遥もうすぐ誕生日なんや…ふふ、ええ事聞けたわ。ありがとうな、苗字さん。ほな、二人共また明日な!」
「うん、また明日ね」
「どもっす」
ヒラヒラと手を振る名前と、ぺこっと頭を下げた財前。そんな二人に軽く手を振った後、白石はその場を立ち去った。その際気付いたが、手に袋を下げていた。
ーー此処で買ったみたい……。お姉さんに?いや、それとも……いや、やめとこやめとこ。
暗くなろうとする思考と、暗くなろうとする心を振り払うように強く頭を左右に振った。強く振りすぎて頭がクラクラしたが、思考も気分も暗くなるよりも大分マシだった。
「さて、お店に入ろうかな」
気持ちを切り替えるように明るく言った名前に、財前はなにを言うでもなく目を伏せた。
「……じゃあ、俺はこれで」
小さな声がそう言った。寂しい。そう言っているように聞こえた。思わず名前の手が、財前の手に伸びる。
彼が寂しそうにしていたから?