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《R18》知らないんでしょ《庭球》

第5章 スカーフ



「此処がお店…なんだか緊張するな。高い所じゃないよね?」
「普通ちゃいます?まぁ、とりあえず中入って見てみまーー」

 言葉の途中で、繋がれていたふっと手が離れた。突然離れていった手に、何故か少し寂しさを感じて財前へと視線をやると彼の視線は真っ直ぐに向いていた。
 つられるようにして名前の視線が正面ーー店内へと向けられる。そして、目を見開いた。

「あれ?#NAME2さんに財前やん、奇遇やなぁこんな所で会うなんて。二人でデートでもしてたん?」

 柔らかな声音でそう言いながら店内から外へとやってきたのは白石蔵ノ介であった。
 片手をあげながらにこやかに言葉を紡いだ彼に、名前は見開いていた目を細め、ギュッと唇を噛み締めた。

 ーーまったく意識されてないなぁ、私。…当たり前だけど。

 気分が沈んでいくのが自分でもよく分かった。目的の場所であった店はもうそこにある。それなのに今すぐにでも逃げ出したくなった。

 ーーやっぱり、私も遥みたいにならなきゃ白石くんにはーー…。

「ちゃいますけど」

 キッパリと、強い口調で財前が白石へとそう言葉を投げた。
 驚き、目を丸くし隣に居る彼へと視線をやると気だるげに首元を撫でさすりながら言葉を続ける。

「ただそこで会って、スカーフが置いてある店何処かにあらへんか言われたから案内しただけっすわ」
「へぇ、そうなんや。せやけどさっき手繋いでへんかった?」
「は?それ、完全に見間違いですわ。部長、疲れてるんちゃいます?」

 そう言って嘆息を吐いた財前に、白石は「そうやったんや、勘違いして堪忍な」と彼と名前に謝罪の言葉を述べた。

 ーー半分本当で、半分嘘だから……謝られるの申し訳ないな。

 名前が財前にこの店を教えてもらい案内してもらって、ここまで来たのは事実。
 しかし、手を繋いでいなかった…と言うのは嘘だ。
 ほんの少し前まで手を繋いでいたのに、不意に離れたのだ。それは完全に、白石蔵ノ介を視界に入れ"認知"していたからだ。

 白石蔵ノ介がそこに居る事を。
 名前が "白石蔵ノ介に恋をしている" 事を "認知" していたからだ。

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