第5章 スカーフ
ーーな、何?何なの?なんでこんなに頬が熱いの…!?て言うかか、さっきドキッとして…いや、今も、少ししてる…。
訳が分からず戸惑っていると「名前先輩?」と声を掛けられた。慌てて顔を左右に振り、財前くんへと視線を向ける。
「ご、ごめん!ボーッとしてた」
「…そっすか。スカーフ見に行くんですよね?案内するんで、はよ行きましょ」
「え?!ば、場所と名前教えてくれれば一人で行くよ」
「アンタ間抜けぽそうなんで、辿り着かへんと思いますよ。ちょっと分かりずらい所やし」
「な、なんか失礼な事言われた気がするけど……案内してくれるのは助かるよ。ありがとう、宜しくね」
そう言って僅かに笑みを零す名前に、財前は「別に」とだけ答えてふいっと視線を逸らし歩き始めた。
腕を掴んでいた手が、するりと滑り名前の手に辿り着いた。誘うような指先が手のひらを撫でてくるものだから、ビクリと手がひらいてしまう。
それを見越していたのか、するりと彼の指が名前の指に絡まり気づけば手を繋いでいた。しかも恋人繋ぎだ。
「あ、あの、財前くん…手が…」
「…………」
「え、む、無視?」
「…………」
「無視ですね、はい」
がくりと体を脱力させながらそう呟いたが、それでも財前は無言のままであった。半歩先を歩きながらも、緩く手を繋いでいるおかげで人が多くてもはぐれる事はなさそうだ。
ーーくそぉ…財前くんきっと、手を繋いでいないと勝手にはぐれたりして迷子になるとか思ってるんだろうな…。小さな子供じゃないんだから!て言うか私の事ちゃんと先輩だと思ってるのかな?
むくれながらも、財前が居たからこそスカーフが売っているらしい店に行けるので口に出しては言わない。
それから数分、財前と名前は手を繋ぎながら無言で人混みを歩いたのであった。
ー ー
二人で黙々と歩いてから数十分が経った頃。今まで黙っていた財前が「着きましたよ」と口を開いた。
自然と下がっていた視線をあげると、差程大きくはないが綺麗な外観の建物がそこにあった。開かれたドアの横には椅子が置いてある。その椅子の上に「雑貨屋・真実 OPEN」と書かれている。