第5章 スカーフ
財前の機嫌の悪さを察した名前は数度頬をかいたあと溜め息を吐いた。
「…あのね、財前くん。私はいつでも白石くんの事考えてる訳じゃないよ。他のことだって考える」
「へー。部長の事、やっぱたまには考えてるんすね。ほんまにダイスキなんすね」
「……財前くん、なんか今日刺々しいけど何かあったの?」
「別に、なんもないっすけど」
そう言って嘆息を吐いた財前は、自身の首元を撫で擦りながらふいっと視線を外した。どうやら自分でも今の発言は刺々しいと理解はしているようだ。バツが悪そうに視線を外したまま、こちらにそれが向かない。
再度嘆息をつく。立ち去るでもなく、かと言って話をする訳でもない彼に名前は僅かに眉を寄せ首を傾げた後、話題を変えることにした。
「ねぇ、財前くんスカーフ売ってる場所知らない?見に行こうとしてらいつも行ってたお店が潰れちゃっててさ~」
困っちゃったよー、なんて言いながら頭を搔く名前。話題を提供したものの、財前がスカーフを巻くタイプの人には見えない為、あまり期待はしていない。
しかし「知ってますよ」と抑揚のない声で言われ、名前は思わず「へ?」なんて間抜けな声を上げる。
「義姉がスカーフ好きな人で、たまに付き合わせたりするんで知っとります」
「へぇ!そうなんだ、すごく助かる。お義姉さんと買い物したりするんだ」
「まぁ、そっすね」
「ふふ、お義姉さんと仲良いなんて微笑ましくて可愛いね」
「…は?」
可愛い、と言った名前の言葉に、僅かに目を見開いた後財前はムスッとした表情を浮かべた。ほんのり頬が赤く染まる。どうしたんだろうか?と首を傾げるよりも前に、彼の手が名前の手首を勢い良く掴んだ。
突然の事に驚き、目を瞬かせながら「ざ、財前くん?」と問いかける。
「可愛ええとかやめてくれません?俺、男なんすけど」
そうーー鋭い視線と、僅かに雄を感じさせる声が、名前に向けられた。
至近距離でじっと見つめられ、ドキリと心臓が跳ね上がる。
「え?あ、あぁ…そうだよね、ごめんね」
ぶわっと頬が熱くなるのを感じ、上擦った声で言いながら俯いた。