第5章 スカーフ
それから少し話した後、帰ろうとする名前を遥と彼女の母親がとめ、結局晩御飯を食べて行く事になった。美味しそうな料理の数々に、思わずぐぅ、とお腹が鳴る。
遥と、遥の母親と、名前。女性三人で他愛もない話をしながら食事をし、笑う。
ーー遥のお母さん、女性らしくて明るくて、可愛い人だなぁ…。
笑みを零しながら遥の可愛い所を話すその人を見て、名前はぼんやりとそんな事を思った。
ーー遥もこれだけ愛されてたら幸せだろうなぁ…。
ほっこりとしながらそんな事を思い、つい、と遥へと視線をやると、彼女の表情は酷く沈んでいた。
ー ー
それから数日経ち、日曜日となった。遥の誕生日までもう目前だ。
名前は彼女の誕生日プレゼントを買いに街をぶらついていた。以前プレゼントすると約束をした為、スカーフを買うの決定しているのだが…。
ーーまさかあのお店が潰れてたなんて……。
遥と何度か行ったことのあるショップ。そこには色んなスカーフが置かれていた。中学生にはちょっと手が出せないようなちょっとお高めなアクセサリーなんかもあって「いつか買いたいな」なんて思っていたのだが…。
ーー困ったなぁ…あそこ以外でスカーフ置いてあるお店知らないし…。
眉間に皺を寄せ、ぐるぐると思考を巡らせる。
ーーショッピングモールで探す…?いやでもあるかどうかも分からないのに一店舗ずつ探していくのは時間的にも体力的にも…。
「名前先輩」
「わっ?!」
不意に名前を呼ばれたかと思えば、ぐいっ、と腕を引っ張られた。間抜けな声をあげ、体ごと視線が後ろへと向く。
視線の先には僅かに眉間に皺を寄せた財前光がそこに居た。
「び、びっくりした…あ?え?ざ、財前くん?」
「なんでそないキョドってんすか。ちゅーか、何回も声掛けんやけど、気づきませんでした?」
「え、ぜ、全然気づかなかった……ごめんね、考え事してて」
「……部長の事でも考えとったんですか」
チクチクした声音の言葉が飛んできた。あまり機嫌が良くないようだ。