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《R18》知らないんでしょ《庭球》

第5章 スカーフ



 旭の仏壇がある部屋へと入ると、ふんわりと線香の匂いが鼻腔を擽った。仏壇へと視線を向けると、線香は立っていなかったが、跡は残っていた。既にあげた後なのだろう。
 仏壇の前に置かれている座布団に腰を下ろし、線香に手を伸ばした。

「………」
「………」

 両手を合わせ、目を瞑っている最中、室内は酷く静かであった。しんと静まりかえった室内に、カチカチ、と言う時計の音がやけに大きく響く。

「…ねぇ」遥が焦れたように口を開いた。それと同時に、名前の肩に触れ自分の方へと向かせる。

「どうしたの?そんなに不安そうな声出して」
「別に、不安そうな声なんて出してないわよ。…ただ、少し長かったから…」
「長かったから、不安になった?それとも寂しかったのかな?」
「ちょっと!アンタ馬鹿にしてるでしょっ…!」
「あはは、してないしてない。よしよし、寂しい思いさせてごめんね~」

 くすくすと笑いながら遥の頭を撫でる。サラサラの髪の毛が指に絡んで、スルスルと離れていく。綺麗な黒髪だな、なんて思いながら彼女へと視線をやると、ふ、と視線が絡んだ。
 コツン、と額同士がぶつかって思わず目を丸くしてしまう。

「…ねぇ、名前」
「うん?どうしたの」
「…名前、呼んでくれる?」
「……?遥」
「……ありがとう」
「どうしたの、今日の遥、なんか変だよ」

 言いながら遥の背に手を回し、トントン、と優しく叩く。れに安堵したのか、数瞬した後彼女はゆっくりと目を瞑った後名前の肩口に額を預けた。

「…あのさ、名前」
「うん」
「私、そろそろ誕生日なの」
「うん、知ってるよ。ちゃんとお祝いさせてもらうからね」
「……今年も、二人きりで誕生日、祝ってくれる?」
「勿論、良いに決まってるじゃない」
「ふふ、やった。…やっぱり持つべきものは幼なじみの親友よね♡名前、大好き♡」

  名前の返事を聞くや否や、遥はいつもの調子に戻ったようにニッコリと笑った。鼻歌が聞こえてきそうな程上機嫌になった彼女に、ほっと安堵し心中で息を吐いた。

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