第2章 私の隣のお姫様
それから時間は流れ、名前と遥は14歳になった。春から四天宝寺中学校の三年生になる。
何処にでもありそうな、とある部屋の一室にーー女子中学生二人がだらだらと他愛もない話をしながら時間を潰している。
一人は長身ですらっとした体躯、長くて艶のある綺麗な黒髪、整った顔立ちの少女。もう一人は……特にこれと言った特徴もない、どこにでもいるであろう平凡な女子中学生だ。
「あー…また今年も色々お笑いイベントあるんだろうなぁ…めんどくさいなぁ」
だるそうにそう呟きながら艶のある黒髪を手で梳くのは遥だ。幼い時の面影を残しつつ、誰もが振り返る程の美人へと成長した。
「まぁまぁ……そう言わないで。四天宝寺はお笑いに特化した学校なんだから仕方ないんだって。それに、皆となにかワイワイしたりするのって楽しいじゃん?私は好きだけどなぁ」
唇を尖らせながら相変わらず自身の髪を手で梳く遥に声を掛けるのは名前だ。眉を八の字に下げつつもくすくすと笑いを漏らし、口元に手を添える。
二人が通っている中学校ーー四天宝寺中学校はお笑いに特化した中学校で、校内の至る所にボケスポットがあったり年間行事にお笑いイベントがあったり、授業にお笑いの勉強などが入っていたりする。
お笑いに熱を注いでいるだけあってか、校内のボケスポットやイベントにはそれなりにお金が掛かっている中学校だ。
そんな中学校だと二人が知ったのは入学してからであった。元々目立つのがあまり好きではない名前と、面倒事が嫌いな遥は渋い顔をしたがそれも三年目となると慣れてしまうものだ(それでも遥は嫌みたいだが)。
「楽しいのは良いけどさー、自分もやるとなると別だよ。ノリツッコミとか何が正解か分からない。私がやると皆黙るんだもん」
言いながら遥の手がテーブルの上に置かれた皿に伸びる。その皿に並べられたクッキーをひとつ摘み小口を開けて、さくり、とその身を割る。
美味くもまずくもない、といった表情を表しながら咀嚼する彼女に名前は困ったように乾いた笑みを零した。