第5章 スカーフ
「遥ちゃん!お帰りなさい、いつもより少し遅かったから心配したのよ~…」
ドアをあけ、遥が玄関に足を踏み入れるや否や彼女の母親がパタパタと足音をたて出迎えてきた。「ただいま」と言う彼女に母親は満面の笑みを浮かべ両頬を両手で包み込んだ。
「お腹すいてないかしら?おやつあるわよ♡今日は遥ちゃんの大好きな…あら?」そこで、ふ、と。母親の視線が名前に向く。
「こんにちは、お久しぶりです」
「あらあら♡名前ちゃん♡本当久しぶりね!来てくれて嬉しいわぁ♡ご飯でも食べてってよ~」
そう言ってニッコリと笑った遥の母親は、彼女の頬から手をするりとはなし、ギュッと名前の手を握る。
彼女の母親は、昔から遥の事を溺愛していて彼女によく触れる人だなとは思っていたが、元々スキンシップが好きなのもあるかもしれない…などと名前は思った。
白くて柔らかくて、華奢な手が名前の手を包んでいる。なんだか照れてしまう。遥の手も白いが、少し大きい気がする。けれど指が長くてとても綺麗。大きさは違えど、遥の手は母親とよく似ている。
「いえ…それは悪いので大丈夫です。旭くんにお線香あげたら直ぐに帰ります」
「あら!旭くんに会いに来てくれたのね!きっと彼喜ぶわよ♡ねぇ?遥」
「……うん、そうだね」
どより。ほんの少し、ほんの、少しだけ、遥の表情が曇った事を、名前は見逃さなかった。
いつも分かりやすく表情を動かす彼女にしては珍しい事だ。
「さぁさ、上がって♡晩ごはんは無理にしてもお菓子くらいは食べて行ってね♡」
「はい、ありがとうございます。お邪魔します」
するりと遥の母親の手が離れていく。軽く頭を下げてから家に上がると見慣れた彼女の家を、彼女の後に着いて歩く。久しぶりに来たが、変わった所はない。最後に来た時と一緒だ。
昔はよく遊びに来たが、いつからか遥は「アンタの家の方がいい」と言うようになり、遊ぶ時は外か名前の家になっていた。