第4章 揺れていたもの、落ちたもの
「名前先輩、言葉と表情がいつもあべこべなん、気づいてます?」
「…え、あべこべ、って」
「口では相手の事良いように言うてても、表情は曇っとるんですわ。まぁ、分かりにくいですけど」
「………し、知らなかった」
「でしょうね、名前先輩、アホっぽいし」
さらりと吐かれた暴言に、名前は目を見開いた後、直ぐに眉を吊り上げ大きく口を開いた。
「あ、アホっぽいって…!せ、先輩に向かってーー」
そこまで言葉を紡いで、ぐっと言葉に詰まる。
名前を真っ直ぐに見つめる財前の瞳に、何故か言葉が出てこなくなってしまったのだ。言葉を詰まらせた名前を見て、彼は口を開く。
「先輩とか、後輩とか。……不釣り合いだとか、似合ってるだとか。ーーそう言うの、考えてて疲れません?」
「そ、れは……」
言葉と、視線と、オーラ。
財前から向けられるそれらに、名前はただただ圧倒される。
悔しくて、恥ずかしくて、何か言い返したのに上手い言葉が見つからず黙りこんでいると、彼は言葉を続けた。
「名前先輩は自分を過小評価して、相手のいい所に目をやって、憧れるのと同時に、嫉妬しとる」
「っ…」
「固定概念?みたいなんが強いんすわ、アンタ。これはこうでなくてはならい、私にこれは似合わない、ならこれにしよう。そんなんばっか、思ってるんちゃいます?」
「そ、そんな事ないっ…!私だって、色々、考えて…」
ーー嘘。考えてるフリをして、いるだけなんだ。
瞳が揺れる。動揺からだ。戦慄きそうになる唇を一度噛み締めるのと同時に、膝の上に置いた手を強く握りしめた。
「ほんまですか?」追撃するように、財前が問いかける。
「………」その追撃を、真っ向から食らい、答えられない。
「私は、白石くんとは釣り合わない。アタックしても、こんな私に振り向いてくれるはずがない。だって、遥が居るから」
財前の口からすらすらと紡がれた言葉に、名前は大きく目を見開いた。
「どうせ、そんなしょーもない事思っとるんちゃいます?それ、なんて言うか分かります?ーー臆病者、って言うんすよ」
ストンーー、と。
"腑に落ちる"音を、名前は感じた。