第4章 揺れていたもの、落ちたもの

　ーーあぁ、そうか。私がイライラしてたのは、自分自身にでもあったのか…。

　そう頭で理解した途端、すっ、と心が楽になるのを感じた。
　それと同時に、感じていた恥ずかしさや悔しさがスルスルと抜けていく。妙に清々しい気分になった名前はしぱしばと目を瞬かせた後、勢いよく財前の顔を覗きんだ。

｢…なんすか｣あからさまに嫌そうな表情を浮かべる彼の事など気にもせず、名前は瞬かせていた目を大きく見開き、そしてキラキラと輝かせた。

｢財前くんて、凄いね｣
｢……は？いきなりなんすか、キモイんでやめてもろてええですか｣
｢いや、だって、こんなに人の事見て、ズバズバ物が言えるのってなかなか出来ない事だよ！本当凄いよ、かっこいいよ！｣

　興奮気味にそう言葉を紡いだ名前は、財前の手に己の手を伸ばし、スプーンを握っている手とは逆の手をギュッと握る。

｢あの、良かったら、時々こうやって私と一緒に遊んでくれる？…それで、時々こうやって私にアドバイス？してほしいな｣
｢…っ｣

　ーーストン、と。

　その時、財前光はーー"何かに落ちる"音に、自分自身で気がついた。

｢………やば｣
｢え？何が？｣
｢別に、なんでもないっすわ｣
｢…？そっか｣

　頬を赤く染め、ふいっと視線を逸らした財前に、名前は小首を傾げつつもスルーする事にしたのであった。