第4章 揺れていたもの、落ちたもの
ーーずっと見られてたのかな…?
だとしたら、恥ずかい。名前はそう思った。不釣り合いな店に、自分が居ることも。ソワソワと落ち着きなく居る子供じみた自分も。それらを財前が見て、そう感じていたかもしれない。
ぶわり、と羞恥心が襲ってきて頬が熱くなる。膝の上に置かれた拳が僅かに震えるのと当時に、キュ、と唇を噛み締めた。
「ケーキ、好きなんちゃうんですか」
「え?」不意に投げられた言葉に思わず間抜けな声を出し、自然と顔が上がる。
「ケーキ出された時、一瞬嬉しそうな顔しとったのに直ぐにソワソワ落ち着きないようになって、俯くし」
「あ、わ、私そんなに挙動不審だった…?」
「まぁ、そっすね」
「ご、ごめん」
「別に謝られる事ちゃうんでええですけど」
頬杖をついていた財前くんはそう言葉を紡いだ後、目の前に置かれていた白玉ぜんざいに視線をやり、手を合わせた。「ゴチになります」と呟いてから木製のスプーンで白玉を掬い口に運んでいく。
そんな様を、ただぼんやりと眺めながら、
ーー財前くん、些細な表情の変化を見てたのか……。
と、理解した。不釣り合いな場所に居る私。きっと彼もそう思っているに違いない。勝手にそう決めつけて、勝手に恥ずかしくなってーー。
「…私、馬鹿みたい」
「は?なんすか、突然」ぽつりと呟いた名前の呟きに、訝しげな表情をうかべる財前。
「なんか、周りの目を気にしすぎだな、って思って。……私も、自分に自信を持ちたいな。遥、みたいに」
ポツリ。呟いた言葉に、自分自身で苛立ちを覚えた。
遥のように、自信満々に、胸を張って生きてみたい。そう思うのに、名前は彼女を嫌悪している部分もある。
憧れと、嫌悪。
それが、名前が遥に向けている感情だ。
「あの人みたいになりたい、とか。それ、ほんまに思うてます?」
「え、な、なんで?思ってるよ、勿論」
鋭く言われた言葉に、ギクリと体が跳ねる。自分の心の中を見透かされたようで、怖くなった名前は自然と視線が下がっていく。
そんな名前に、財前はあからさまな溜め息を吐いた。