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《R18》知らないんでしょ《庭球》

第4章 揺れていたもの、落ちたもの



 困った表情を浮かべる名前に、財前は深く息を吐いたあと言葉を続けた。

「休み時間急に教室覗きに来た思ったら、「財前くん居ますか」言うて、クラスの奴が居らへん言うたら「また来るね」とか言うてたらしくて。面倒やな思って休み時間の度に外出とって、下駄箱見たら手紙入っとるし。手紙には「放課後図書室に来て」しか書いてへんし」
「…それで、放課後図書室にいたんだ」
「まぁ、そう言う訳っすわ」

 眉を寄せ、シワを作りながら至極面倒そうに溜め息を吐いた財前に、名前は心の中で「おぉ…!」なんて声を上げた。

「あの人部長にもあんなんやって色仕掛けしとるんですか?」
「い、色仕掛けって……」
「色仕掛けでしょ、あんなん。ちょっと顔合わせたぐらいの俺に、あんな猫なで声の上目遣いで。急になんなんすか、あの人、ほんま意味分からへん」
「お、落ち着いて、財前くん」

 まぁまぁ、と財前を宥めていると「お待たせしました」と店主がやってきた。シルバーのトレイに注文したものが乗っている。それぞれ目の前に注文した物が置かれた。
 しかし、名前の目の前に注文した覚えのないケーキがことりと置かれ「え?」と声を上げる。

「すみません、ケーキは注文してないんですが…」
「こちらはサービスですのでご安心ください」
「え、さ、サービス…?このケーキがですか?」
「はい。甘いのがお好きであれば、クリーム付けて、甘いのが苦手であればそのままお召し上がりください。甘さ控えめですので、甘いのが苦手な方でも平気かと思いますが…苦手なようでしたら気にせず残してください」
「…あ、ありがとうございます」

 にこやかな笑みを浮かべた店主に、上擦った声で礼を述べる。羞恥心を感じ、頬が熱くなる。

 ーー私、なんだかここの店に浮いてる気がするな…。

 お洒落なこの店に、自分のようなお子様が居る事が猛烈に恥ずかしくなってきた名前は、膝の上でギュッと拳を握りしめた。コツ、コツ、と靴音をたて去っていく店主。カウンターへと入ったのを見届けてから、目の前の財前へと視線をやった。
 ぱちり。視線がぶつかった。

「あっ…」

 思わず小さな声が漏れる。
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