第4章 揺れていたもの、落ちたもの
「ちょ、ちょっと待ちなさいよっ…」
「遥、行かせたろうや。二人、なんや一緒に用事あるみたいやし」
「うるっさい、蔵ノ介!退いて!ちょ、名前っ…!」
腕を引く財前と、引かれる名前。そんな二人を引き止めようとする遥と、それを宥める白石。あぁ、なんてカオスなんだろう。
ーー白石くん、遥と二人きりになりたいんだろうな。
財前に腕を引かれながら、名前はぼんやりとそんなことを思った。二人の騒ぐ声が、耳に入っている筈なのに徐々に意味を理解出来なくなってきた。
ーーあ、不味い…。
そう思うと同時に、財前と名前は図書室を出ていた。とん、と鳴った図書室のドアを閉める音。それと同時に、はっと我に返った名前は勢いよく財前へと視線を向けた。
「ざ、財前くんどいいう事っ…」
「こんなとこで騒がんといてもらえます?あの人ら直ぐそこに居るんすよ?またダルいのに巻き込まれるん俺嫌っすわ」
「っ…そ、れは…なんか、ごめん」
至極気だるげに嘆息を吐きながら呟く財前に、申し訳なさが込み上げてきた。別に名前が何かをしたわけではないのだが、親友である遥が"ダルい事"をしでかしてしまった為申し訳なさが襲ってきたのだ。
「別に。アンタが謝ることちゃうと思いますけど」
「いや、まぁ、そうなんだけど…」
「……ほんまダルいっすわ、あの人も、名前先輩も」
「…………」
心底面倒くさい、と言うような嘆息を吐きながら、掴んだままの腕に少し力を入れた財前は再度足を進め始めた。引っ張られるようにして名前の足も進む。
図書室から離れて、たどり着いたのは正面玄関だ。下級生の下駄箱が置かれている。そこでやっと手が離れたかと思えば、至極当たり前のような顔を浮かべた財前が口を開いた。
「はよ靴に履き替えて来てくださいよ。この後アンタに白玉ぜんざい奢ってもらう"用事"があるんで」
「は!?な、何それ私聞いてないけど…て言うかなんで私が奢らなきゃ…」
「そこら辺は後でゆっくり話すんで、とりあえず、はよしてください」
落ち着いた声音で上級者の下駄箱を指さす財前に、名前はぐっと言葉を詰まらせた後、渋々靴を履き替えに足を動かした。