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《R18》知らないんでしょ《庭球》

第4章 揺れていたもの、落ちたもの



「私とは話してくれるんだ」
「当たり前でしょ、あんたと私はニコイチなんだから」

 ーーなら人が嫌がる事しないでよ、とは……言えない。

 頬杖をつき、真っ直ぐ前を眺めていた遥の視界に、必然と名前が映る。そっぽを向かないあたり、少し機嫌がマシになったのかもしれない。
 このぐらいならまだマシだろう、と安堵の息を吐けばふっと何かが動いた。反射的に顔を僅かに上げれば、遥の後ろーーと言っても大分離れてはいるがーーに白石が立っていた。
 両手を合わせ、申し訳なさそうなーー少しどこか安堵したような顔をしている。そんな彼に軽く笑みを返し、直ぐに視線を外す。あまり白石に視線をやっていると、遥が気づきまた不機嫌になってしまってはかなわないからだ。
 とりあえず午後の授業が始まるまで、遥と話す事を決める。だてに長年友人関係でいるわけではない。こういう場合、どうしたら彼女の機嫌が徐々に良くなっていくのか、名前はよく知っていた。
 兎に角沢山話しかけるのだ。名前が遥を構えば構うほど、彼女の機嫌は良くなる。最初に見せていた不機嫌さはどこにいったのかと不思議に思うくらいに。

 ーーまぁ、嫌なことはしてくるけど……私の事好きなんだろうなぁ。

 もしかしたら遥は自分を男に取られたくないのかもしれない、と名前はぼんやりと思った。

 だからと言って、今まで彼女がしてきた事は到底許せる事ではないけれど。


 ー ー

「あ」
「あ」

 なんとも間抜けな声が綺麗に揃った。そしてお互い苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。

「なんでここに居るんすか、苗字先輩」
「それはこちらの台詞だよ、財前くん」

 人気の少ない放課後の図書館で、何故か偶然出会ってしまった名前と財前は至極面倒くさそうな表情を互いに相手へと向けた。
 愛想笑いを得意とする名前にとって、それは珍しい事だ。いつも当たり障りなく、波風たてず生きていきたいと思っている彼女が、こうもあからさまに嫌な表情と態度を取るのだから。

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