第4章 揺れていたもの、落ちたもの
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教室に戻ると困った表情を零している白石と、不機嫌さを隠しもしない遥が居た。
自席に座り頬杖をつきただ真っ直ぐに黒板を睨みつけている遥と、そんな彼女をどうしたものかと言う困った表情を浮かべながら眺めている白石。
ーーうーん……関わると厄介事になりそうな感じ。
嫌なことを思いながら、気づかれぬようそっと自席へと戻ろうとしたがーーそれを白石は見逃さなかった。
「あ、苗字さん」
柔らかな声で名前を呼ばれた。安堵の色が濃く感じられる。
まさか白石に話しかけられるとは思っておらず、一瞬目を見開き動きを停止させた名前であったが、直ぐに動きを再開させた。
「どうしたの?白石くん」胡散臭い笑顔を貼り付け、そう言葉を投げた。
白石が名前へと歩み寄る。きっと遥の事についてだろう。そう分かっていても、彼が己の方からこちらへと歩み寄ってくるという事に、嫌でも心臓が高鳴ってしまうのを感じた。
自分の方へと歩み寄ってきた白石へと視線をやれば、困ったようにへらりと笑って見せた。その後、ちらりと視線を遥へとやる。
ーー機嫌どうとっていいか分かんない、って感じか……。
「……ちょっと遥と話してくるね」
「お、おん、堪忍な」
「ううん、気にしないで」
いつもの事だから。
なんて事は、言わない、言えない。
「遥」
彼女の元へと歩み寄って、声を掛けた。勿論、普段通りの声音で、だ。
ちらりと彼女の視線が名前へと向かうが、直ぐに外され、また黒板へと視線が注がれる。
「随分楽しそうだったわね」林檎のように赤く、艶のある唇が動きそう言葉を紡いだ。言葉と声音にチクチクと棘が混ざっている。
「別に、普通だと思うよ。……それより、何でそんなに不機嫌なの?白石くん困ってるよ」
「知らないわよ、蔵ノ介の事なんか」
「ほら、機嫌治して。向こうで一緒に話そうよ」
「嫌よ、気分じゃない。私は今名前以外と話したくない」
「……そっか」
ふぅ、と息を吐き遥の前の席へと移動すると椅子をひき、そこへ腰を下ろした。