第4章 揺れていたもの、落ちたもの
心の中嘆息をつきつつそんな事を思うも、決してそれを口に出す事はせず。名前は財前を真っ直ぐ見つめながらそっと口を開いた。
「あの曲って?」
「さっき、イヤホンせんとガンガン流してたやつの事っすわ」
「……いや、イヤホンはしてたつもりなんだけど……刺さっておらず、あれは事故のような…」
「好きなんすか」
良いから答えろ。そう言わんばかりの言葉の投げかけ方に、ひくりと頬をひくつかせた名前だが「好きだよ」と素直に答え、その後も言葉を紡いでいく。
「あの曲ね、動画投稿サイトに投稿されてたやつなんだけど……歌詞も曲調もどれも好きで投稿されてるやつは全部聞いてるしプレイヤーに入れてあるんだ」
「へぇ……」
「あ、そう言えば作者の人ね、いつも投稿文が簡潔なのにちょっとボケ入れてくるから面白くてね?曲も勿論毎回楽しみなんだけど、その投稿文も楽しみのひとつなんだ」
ぐら、ぐら、
ぐら、ぐら…。
揺れる、揺れる。
ぐらぐらと、揺れる。
名前は数々の投稿文達を思い出し、ふふっと笑みを零す。そんな彼女の横顔を財前はただ黙ってじっと見つめた後「ありがとうございます」と何故か礼を述べた。
その言葉の意味が分からず「え?」と声を上げたが、彼はその声に反応する事なく自身の昼食を手早く食べ終え「じゃ、失礼します苗字先輩」と言って去っていった。
「……な、なんなの、あの子……」
驚きを通り越して最早感心してしまう程のマイペースと言うか、己の道を行くというか。名前は頬をひくつかせた後、はぁ、と小さく嘆息を吐くと残りの弁当を全て食べ終えた。
ーー財前光くん、か……クールなような、年相応のような……よく分からない子だったな。
空になった弁当箱を片付けつつそんな事を思う。
人の話を聞いているのかいないのか分からない返事をするし、突然確信をついた事を行ってくるし、突然脈絡もないことを聞いてくるし、かと思えば卵焼きや唐揚げに興味を示してくるし。
ーー分かりにくいのか、分かりやすいのか……うーん。
眉を寄せ、眉間にシワを作りつつ嘆息をひとつ零してからすくりと立ち上がった。