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《R18》知らないんでしょ《庭球》

第4章 揺れていたもの、落ちたもの



 分からない。財前光と言う男が分からない。
 困惑しつつも「幼なじみだからね」と答えれば「それ、答えになってへんのちゃいます」と間髪入れずに返してきた。

「幼なじみだから、仲ええ……そうは決まってませんよね」
「っ……」

 感情の読めない視線と、自身の困惑した視線が絡み酷く息苦しさを感じ名前は言葉を詰まらせた。
 的を得ている。

 幼なじみ=仲がいい訳では、必ずしもない。
 
 寧ろ、幼なじみだからこそ色んな事を知っていてーー知りたくもないのに、知っていて、嫌になるのだ。ドロドロとした黒い感情を、掻き回されるのだ。

「……仲良いよ、表向きは」
「はぁ、女同士ってそんなもんなんすか」
「ううん。必ずしも女全員がこう言う訳じゃない。寧ろ、表向で仲がいいと思ってるのは私だけで遥は本当に仲良い幼なじみ二人組って思ってるかもしれないし。……まぁ、わかんないけどね」

 ふっ、と鼻で笑い吐き捨てるようにそう言えば「へぇ」とだけ返ってきた。自分で聞いてきたくせにやけに適当な返事ではないか、と名前はムッとしたが、これ以上この話を続けるのは面倒だと口を閉ざした。
 顔を上げ、空を見る。憎たらしい程の快晴を睨みつけた後、そっと自身の太ももへと視線を落とす。拡げられた弁当箱の中は、まだ半分以上残っている。

 ーーお腹は空いてるのに、食べる気がしないな。

 本日何度目かの嘆息を口の中で殺しながら、ふっと白石を思い浮かべた。遥の行動に、いちいち表情を変える彼。初対面では大人びた印象を受けたが、気になる相手には少し振り回されてしまうタイプなのかもしれない。

 ーーいや、ないな。遥が人を振り回すのが上手いだけだ。

 ドロドロと腹の奥底から少しずつ黒いものが滲み出てくる。その都度名前は自分の事が嫌になり、何度目かも分からない"もし遥と距離を置いたら"を頭の中で思い浮かべた。

「好きなんすか、あの曲」
「え?」

 出来もしないシミュレーションを頭の中で繰り広げていると、不意に言葉を投げられ目を丸くする。

 ーーこの人、いつも話振るのが突然と言うか……なんと言うか。

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