第4章 揺れていたもの、落ちたもの
「き、君は……」
「財前光」
「財前、くんは……なんで、私の考えてる事分かったの?」
声を上擦らせながらそう問えば、美味くも不味くもなさそうな顔で咀嚼をしていた彼ーー財前光の視線が名前へと流れる。
「別に。当てずっぽうに言うただけです。まぁ、まさかほんまにそうやとは思ってへんかったけど」
「あ、当てずっぽうだったの……」
「そっすね。けどまぁ…俺に興味無さそうな顔しとったくせに呼び止めるくらいやから、そんな感じやろうなとは思うとりましたけど」
「きょ、興味無さそうな顔なんて…!」
してないよ!と言おうとしたが、冷めた財前の目に射抜かれ言葉が出なくなってしまった。何もかも見透かしているような目だ。綺麗なのに、とてつもなく冷めていてーー怖い、と名前は思った。
言葉が喉の奥に引っ込んでしまった名前は視線を少しさ迷わせた後、口の中で嘆息を殺してから弁当へと手をつけ始めた。
いつも自分でつくるお弁当は、大体どんな味かも想像出来ているし口にすればやはりその想像通りの味であった。つまらない、と名前は思う。見た目通りの中身だなんて、まるで自分みたいだと思ったのだ。
食べ慣れたその味に不満を持ちつつ、咀嚼をしていると不意に視線を感じた。
真横から突き刺さるそのさめたような視線が、誰から送られてきているかなんて確認しなくてもわかる。しかし気付かぬフリをしてそのまま食事を続ける程名前の神経は図太くはない。
「…何かな?」
箸を止めて、にっこりと笑みを"作って"そう言葉を投げ掛ければ、
「胡散臭」
と間をおかず返された。ひくり。名前の頬がひくつき、笑顔のまま固まる。何故この男の言葉こうもストレートで、表情は限りなく無に近いのか。
今までに出会った事の無いタイプの人間に、名前は困惑した。どう接していいか分からないのだ。人というものは、例え嘘っぱちな笑みでも向けられれば笑みで返してくるものだと思っていた。
しかしこの財前光と言う男はどうだ?全くもって、笑みを返してこない上に胡散臭などと言ってきた。流石の名前もこれ以上は笑みをはりつける事が出来ず、深く息を吸い込んで、鼻からそれを吐き出した。