第4章 揺れていたもの、落ちたもの
「……なんすか」
心の底から面倒だと言わんばかりの表情と声音が名前に向けられる。
進行方向から自分へとゆっくり視線が流れ注がれ、何故二度も自分は引き止めてしまったのかと名前は頬をひくつかせた。
「えっえっと……教えてくれてありがとう。折角だからさ、お話しない?」
ぽろりと口から零れた言葉に、心中でツッコミを入れる。
こんなにもあからさまに面倒そうな態度をとられてて、引き止めるなんて自分はもしかしてマゾか何かなのか?と脳内でグルグルと考えながら、半分引きつっている顔を無理矢理笑みの形にして彼へと向ける。
そのぎこちない下手くそな作った笑みを受けても彼の表情は変わらない。まるで心底面倒くさそうなその表情のまま産まれたのではないか?と思ってしまう程に、ピクリとも動かない。
「あ、あの……」
不安と焦りを誤魔化すように、再度口を開けば微かな嘆息が聞こえてきた。
その嘆息に、やはり迷惑だっただろうか?と名前の額から冷や汗がぶわりと滲むと同時に、じゃり…と靴底が地面をすった音が耳に滑り込んだ。
反射的に顔をあげれば、先程まで目の前にいた彼は名前が座るベンチに腰掛けていた。思わずしぱしぱと目を瞬かせれば「なんスか」と素っ気ない言葉がぶつけられた。
「い、いや……まさか本当にお話してくれるとは思わなくて…」
「二回も引き止めておいてそれ言います?」
「あはは…。そ、そうだよね…」
立ち去ろうとして二回も引き止められては確かに折れる人の方が多いだろう。名前は乾いた笑いを漏らしながら弁当へと視線を落とした。
引き止めたはいいものの、話題も何も考えていなかった。
何を話せば良いのか?と考え、すぐに浮かんだのはーー白石蔵ノ介の顔であった。
ーー現金なヤツだなぁ、私。
自分で自分に呆れてしまう。思わず溜め息を吐けば、
「部長の話でも聞きたいんすか」
と真横から聞こえてきた。驚きすぎて声も出ない。目を丸くさせ、思わず隣の彼を見れば興味無さそうな顔を浮かべながら惣菜パンを齧っている。
ーーえ?え?な、なんで分かったの?
ぶわりと浮かぶ冷や汗をそのままに、名前は目を丸くしたまま彼へと視線を注ぐ。