第4章 揺れていたもの、落ちたもの
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午前中の授業が全て終わった。昼休みの時間だ。先程まで静かだった教室内はもうすっかり騒がしい。名前は本日何度目かの嘆息を思いきり吐き出した。騒がしい教室内、気に止める者など誰も居なかった。
休み時間の度、遥と白石の笑い声が嫌でも耳についてしまい名前の心はすっかり疲労していた。
「名前~♡お昼、たーべよ」
今はまるで聞きたくはなかった、よく聞き慣れた声がするりと耳に入り込んできて、視線を落としていた机に影をさした。
反射的に顔を上げれば思っていた通りそこには遥がコンビニ弁当片手に立っていた。しかも何故か横には白石も居て、ぱちりと目が合えば少し気まずそうに笑みを零した。
「えっと…苗字さん、俺も昼一緒にしてええかな?」
「え、し、白石くんも?」
「そー♡蔵ノ介も。いいでしょ?一緒に食べたいって言うからさ、ね?」
そう言って首を傾げ微笑む遥。その隣の白石は、曖昧な笑みを浮かべ笑っているだけ。
ーーあぁ、なるほど…そう言う、ね。
「ごめん、私今日は別の子と予定があって……悪いけど、二人で食べて」
ぱちん、と。両手を合わせ先程遥がしたように首を傾げて見せる。表情は勿論、申し訳ないと言ったものをはりつけている。
そんな名前に、白石の表情がほんの僅かに、動く。安堵の、ものに。ズキンと、勝手に心臓が痛んだ。
「えー…ならその子も私達と一緒に…」
「じゃあ、そう言うことだから。白石くん、ごめんね」
「いや、こっちこそなんや悪かったわ。また今度遥と、苗字さんと俺で食べよな」
「うん!勿論」
満面の笑みを浮かべ声を弾ませる。唇を尖らせ不服そうな顔をする遥を視界に入れないようにしながら、名前はそそくさと弁当やらスマホやらを手にし、早々に教室を出た。
ーーあの二人、
すたすたと、一歩一歩廊下を歩く。
何処に行こうか、考えながら。
別の子と予定なんて、真っ赤な嘘だ。白石にあんな表情をされて、図々しく二人の間に居座れるほど名前の神経は図太くない。
ーー名前、呼びあってたな。
ーー本当に、もう、
出してはいけない言葉が、今にも口から出そうだった。