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《R18》知らないんでしょ《庭球》

第3章 四天宝寺の王子様



 その遥の微笑みに「おおっ」と小さく声があがった。教室にいる男子生徒達が彼女の笑みを見たのだろう。ひそひそと可愛い可愛いと言う声が嫌でも耳に滑り込んでくる。
 つい…と。白石へと視線を流せば「ほんま仲ええんやな」と微笑みを返していた。ほっと安堵する。遥の笑顔で、堕ちってしまったら…と不安が頭を過ぎったからだ。

「ていうか、蔵ノ介…って珍しい名前だね?古風」
「んーよう言われるわ。顔チャラいのに名前は古風やなーとか」
「えー、チャラい?かな?カッコイイけどチャラくないよ。白石くん真面目なんだな、って感じがちょこちょこ伝わってくるし。それに、蔵ノ介って名前かっこよくてよく似合ってるよ」

 すらすら。ぺらぺら。よく動く口だと、名前は心の中で思った。どろどろと腹の底から何か滲み出てくる。あぁ、幸せな時間が、空間が、塗りつぶされていく。

「え…ほ、ほんま?なんや、ストレートにそう言われると照れるわ…」
「ふふ、本当に照れてる。何だか照れられると私も照れちゃうな」

 はにかんで笑って、するりと名前の腕から自身の腕を引き抜いた遥はそっと両手で顔を隠した。目を閉じほんのり頬を赤らめる。
 そんな彼女を真横でただ見つめる。ただ、眺める。
 ふと遥と目が合った。

 ゆるり。上がった口角に"あぁやっぱりな"と名前は呟いた。勘のいい彼女にはやはりバレてしまったらしい。名前が白石蔵ノ介に淡い何かの感情を抱き始めていた事に。
 何度目か分からない、演技と言う名の略奪への道標。遥の演技は感嘆するほどのものだ。傍から見ても可愛いな、と思ってしまうのだから。

 ーーまた、ちゃんと恋できないのかな。

 いつも恋心に発展する前に略奪さえ、潰されてしまう淡い想い。何度味わったか分からない怒りと、悲しさと、虚しさ。どんなに頑張っても、最後には皆遥の事を好きになる。

 皆が皆、遥を好きになる。
 全員が全員、遥を好きになる。

 ーー本当、鬱陶しいなぁ。

 にこにこと笑みを浮かべ遥を見つめながら、心の中で毒を吐いた。

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