第3章 四天宝寺の王子様
反射的に視線を逸らしてから、やってしまった、と名前は後悔した。こんな風にあからさまに視線を逸らしてしまえば"何かある"のだと言っているようなものだ。
膝の上に置いた両手をキュッ、と握りしめながら喉の奥にある固まりを吐き出すように小さく息を吐いた。そっと遥へと視線をやれば、彼女の視線は既に名前へと向いていなかった。
だがしかし、次に彼女の視線が向いていた先はーー
白石蔵ノ介 であった。
やってしまった。名前は心の底からそう思った。
ー ー ー
簡単な自己紹介や、明日からの流れなど。ざっくりとした説明を終えた担任は早々に教室を出ていった。何か大事な事を話していた気がするが、遥とーーその視線の先の彼に意識が集中してしまいあまり聞いていなかった。
はぁ、と嘆息を吐いた。気が重かった。また略奪されてしまうのだろうか?そんな事を考えると黒く暗く淀んだ何かが腹の奥底からじわじわと滲み出てくる。
「名前ー!」
机の上をただぼんやりと眺めていたら、ふと名前を呼ばれた。滑り込んできたその声に、思考の海へと潜っていた名前の意識は無理矢理引き上げられ現実世界へと戻される。
流れるように視線を声のした方へとやれば、満面の笑みで手を振っている遥と、その横にはーー
ーー白石、くん…。
どくん。また心臓が嫌な跳ね方をした。