第3章 四天宝寺の王子様
それらの噂は自分から進んで聞きに行かなくても、クラスメイト達がひそひそと話しているのをそっと耳を澄ませば直ぐに耳に滑り込む。まぁ、耳を澄まさなくても勝手に耳に入り込んでくる事の方が多いが。
人間と言う生き物は噂話が好きだから、楽しげに話す人達の声は自分らが思っているよりも大きい。だからこそ、別段聞きたくもない話が滑り込んでくるのだ。
まぁ、そんなわけで。白石に関する数多くの噂話を耳にしていた名前は完璧に雲の上の存在だと思っていた。関わることは愚か、目さえ合わすことなどないと思っていた。
だが現実はどうだ?今朝、ふとしたきっかけで話してーー白石蔵ノ介と言う男にあっという間に名前は惹かれてしまった。
それは好きと言うにはまだ早い。淡くて脆い感情だが、今現在の名前にはそんな事どうでもよかった。
噂話を聞いて勝手にイメージを膨らませていた名前。顔はいいがさぞ嫌な奴なのだろうと勝手に思っていた。だがしかし、実際に白石蔵ノ介と出会い話してみてーーそのイメージが全く外れていると強く思った。
実際に話し、接してみた白石蔵ノ介と言う男は物越し柔らかく、話しやすくて、何処か少し変わっていてーーそして、かっこよかった。そんな彼にときめかない女の子なんて居ないと、名前は強く思った。
現に、苗字名前は白石蔵ノ介に酷くときめきーー淡く脆く儚い想いを作り上げていた。
ーー私、にやけてなかったかな?
両手で顔を隠したまま、ふとそんな事を思った。
好きと言うにはまだ早い。しかし確実に無感情とは違う何かが自分の中に生まれている事に名前はむず痒さを感じ自然と緩む口をきゅ、と結んだ。
そっと顔から手を離し、軽く息を吐きながら再度白石へと視線をやろうと思いーー目を見開いた。
それは何故か?鋭く突き刺すような視線が、遥から送られてきているからである。
ーーみ、見られてた…?
頬杖をつき、じっと自分を責め立てるような視線を送ってくる遥に名前の心臓はどくんと嫌な跳ね方をした。
上手く笑顔を作れる自信がなかった。しかし、名前は自分自身が思っているよりも強かな女の子だったらしい。