第3章 四天宝寺の王子様
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校内のいたるあるボケスポットのうちのひとつーーそのボケスポットの近くに張り出されたクラス表を見て、名前は驚き目を見開いた。
名前と遥のクラスは3ー2。その3ー2のクラス表の中にーー彼、白石蔵ノ介の名前が入っていたのだ。驚きと同時にむず痒いような感覚が、じわじわと名前のなかに込み上げてきた。
嬉しいような、恥ずかしいような、照れくさいようなーーでもやっぱり嬉しいような、そんなむず痒く、難しい感覚に名前はそっと口元に手を当てた。自然と頬が緩んでいる事に気がついたからだ。
「やった!クラス一緒だねっ」
隣ではしゃぐ遥の声が耳に滑り込み、ふわふわとした意識と感覚からぐわりと現実に引き戻された。
ーー私……遥と一緒の事よりも、白石くんとクラスが一緒の事を喜んでた…?
隣で嬉しそうにはしゃぐ彼女見て、名前は居た堪れない気持ちになりそっと俯いた。
「ん?どうしたの?元気ないじゃん。折角一緒のクラスになったのに~」
「あはは、ごめんね。ちょっと別の事考えてて」
「クラス表見ながら別の事?うーそだね。アンタそんな器用な事出来る子じゃないじゃん」
「し、失礼な……私だってそれくらい出来るよ」
緩く頬をつつきながら小馬鹿にしてくる遥に、言葉を詰まらせつつも反論する名前。
ーー良かった、いつもと変わらない遥だ…。このままの感じでいれば白石くんのことには触れーー…
「しらいしくらのすけ」
どき、と。心臓が嫌な跳ね方をした。
誰かの手によって握られた心臓が、大きく無理矢理跳ねあげられたようなーーそんな、感覚。痛くて、怖くて、ゾワゾワする、感覚。
バクバクと煩く鳴る心臓へと無意識に手を置き、ひくりと頬をひくつかせながら遥の目を見れば、真っ直ぐ名前の事を見つめていた。
笑っていない、その綺麗な目が……名前と視線が絡んだ瞬間ーーゆるり、と。三日月のように歪み笑みの形を表した。くらりと目眩がした。酸素が足りない気がした。