第3章 四天宝寺の王子様
反射的に両手を顔から退かし、下がっていた視線を上げれば見知らぬ男の子が名前を見下ろしていた。黒くて短い髪の毛。左右の耳にはピアス。それぞれ色が違う。赤、青、黄、緑、黒。五輪カラーだ。口は少し下がり気味。眉はピクリとも動かない…どころか、表情筋すらあまり動いていない気がする。
そんな男の子が、座り込んで頭を撫でる白石と…頭を撫でられている名前を黙って見つめている。
「………」
「………」
ーーき、気まずい…!!なんでこの人こんなに無表情でガン見…?!
しゃがみこみ黒髪の男の子を見つめる名前。
片手をポケットに突っ込み、もう片手はスマホを持ち…じっと名前を見つめる男の子。
二人の視線が絡まる、絡まる。静かに、絡まる。
「財前~…女の子睨むなや。ちゅーか、挨拶は?」
呆れたような声が、白石の口から黒髪の彼へと発せられた。するりと、白石の手が名前の頭から離れていく。ほんの少しだけ、寂しさを感じだが気づかないフリをした。
財前ーーと呼ばれた黒髪の男の子は白石に言葉を投げられ、至極面倒そうに片眉を器用に跳ねあげさせた後、溜め息をひとつ吐いた。
「すんません。朝から部長がイチャコラしとったんでキモイな思うて言葉でぇへんかったんすわ」
「イチャコラて…してへんわ」
「座り込んで頭撫でといて、よく言いますわ」
興味なさげにそう言葉を紡いだ黒髪の彼は、視線を手元のスマホへと落とすとすたすたと歩を進め掴みの門をくぐっていった。
ーーボケずに通ったけど、良いのかな?
なんて事を思いながら小さくなる彼の背中をぼんやりと眺めていると、じゃり…と音がした。流れるように視線をそちらへとやれば、地面に座り込んでいた白石がいつの間にか立っていた。
衣服についた砂などを軽く払った後、名前の視線にふと気が付いた。砂で汚れた手を軽く制服のズボンで拭ってからその手を差し出す白石。白くて綺麗だが、男らしい骨ばった手だ。
この手を、取っていいのだろうか?と名前は悩んだ。触れていいのか?と。何だか彼に触れてはいけない気がしたのだ。ちらり。白石へと視線をやれば、ん?、とと言う声と共に柔らかく笑い小首を傾げて見せた。