第3章 四天宝寺の王子様
地面に倒れ痙攣していた彼へと近づけば、思っていたよりもあっさりと上体を起こし名前へと視線を寄越した。
さらりとミルクティー色の髪の毛が揺れて、視線が絡む。どきっ、と心臓が大きく跳ね上がった。
ーーち、近くで見て……思ったけど、凄く…カッコイイな。
名前の喉が、こくりと、と自然と鳴った。
四天宝寺中学校一イケメンと言われている男の子ーー白石蔵ノ介。顔も、頭も、スタイルも良い。おまけに男女問わず優しい。平々凡々な自分とはかけ離れた雲の上の存在だと思っていた。近づく事さえ、夢のまた夢だと、そう思っていた。
そんな彼が、自分の目の前に、いる。名前は目を見開きじっと顔を見つめるしか出来なかった。予測していなかった出来事に頭がついていかないのだ。
「えーと……俺の顔に、なんかついとる?」
へらり、と愛想笑いを浮かべながらそう言葉を呟いた白石蔵ノ介。甘くて優しげな白石の声がするりと名前の耳に滑り込み、はっと我にかえり慌てて口を開いた。
「ご、ごめん!顔、思いきりぶつけてたから大丈夫かなって…思って」
「あぁ、そう言う事か。へーきやで。心配してくれておおきに。掴みの門通る時はこんくらいボケなあかんからな」
そう言いながら得意げに笑って見せる白石に、名前の胸がとくんと心地よく跳ねた。
さぁ、と風が吹いて春の香りが鼻腔を擽った頃。名前はしぱしぱと瞬きをしながら口元を抑えた。
「……あっ、ぼ、ボケだったんだ…」
「えっ?!それ以外なにがあんねん」
「い、いや……なんか、変な人なのか…って」
「ふはっ!変な人て!酷いなぁ、自分」
名前の言葉に、吹き出して笑い彼女の頭をくしゃくしゃとかき撫ぜた。
「わ、わっ…!ちょ、っと」
同じ学校の同級生とはいえ、白石とは今初めて口をきいたばかり。そんな相手にまさか頭を撫でられるとは思わず、予想外の出来事に名前の頬にぶわりと熱が集まっていく。
みるみるうちに熱くなる頬を両手で隠しながら、早く手を退かしてくれ…と心の中で願っていると、じゃり…と靴底が地面をする音が耳に滑り込んできた。