第3章 四天宝寺の王子様
そんな事をぼんやりと思いながら小さくなる彼女の背中を見送っていた名前。暫くしてからゆっくりと瞬きをして、前へと向き直った。もう少しで掴みの門だ。さて、三年になったばかりの今日……初ボケは何にしようか?と顎に手を当てる。
いつもは遥と一緒に登校し、二人で何かしら小ボケとツッコミを繰り広げながら通過していたのだが……一人となると当然それも出来ない。
ーーひ、一人でボケるってどうしたらいいの…?!
苗字名前、ここに来て初めて一人でボケるという事の難しさにぶち当たる。ノリツッコミの授業やモノボケの授業はあるが、ノリツッコミはボケがあってこそだし、モノボケはモノがあってこそだ。ツッコミもモノもない場合はどうしたらいいの?!と名前は冷や汗をダラダラとかきながら頭を抱える。
と、その時だった。
ローファーが地面を踏み軽快な音をたてながら何かがこちらに向かってくる。反射的にそちらへと視線をやれば、柔らかなミルクティー色の髪の毛が視界に入った。
ーーあ、
ぱちり。ほんの一瞬、視線が絡んだ。
さらりと踊る綺麗なミルクティー色の髪の毛に負けないくらい、綺麗な目をしたーーそして、よく顔の整った男の子だった。
ーーこの人、知ってる。…確か、四天宝寺一イケメンて噂の…。
じゃり、と。ミルクティー色の彼が、地面を強く蹴り上げた。両手を広げて、空を飛ぶ。その瞬間、まるでスローモーションのように流れ、名前の視線は彼に釘付けになった。
名前がいる位置よりも、太陽に近づいたせいかミルクティー色の髪の毛は陽の光を吸いキラキラと輝いている。とても綺麗だ、と視線が離せなくなる。
「うーん…エクスタっ…しっ!!」
ごんっ!と派手な音が鳴った。ミルクティー色の彼が、顔を勢いよく掴みの門にぶつけたのだ。鈍く、しかし大きく響いたその音に思わず目をぎゅっと瞑れば、どさっと派手な音がした。
反射的に目を開けそちらへと視線をやれば、ミルクティー色の彼は地面に倒れ込み長い足を上げひくひくと痙攣を起こしているではないか。
「だ、大丈夫?!」
驚きのあまり声をひっくり返しながらそう言葉を投げ、慌てて駆け寄った。