第3章 【優しく積もる淡い恋】千石清純
再会なんてすることないと思ってた。
そもそも彼女と俺は今後どこかでかかわる生き方をするとは思っていなかったから。
だからあの雨の日に【女性名字】の引っ越しの手伝いとかついてないよなぁなんて思いながら足りなくなったものを買いに外に出て【夢主名字】さんに再会したことは本当に偶然で驚きだった。
あの雨が本降りになってきて傘持ってきて正解だったなぁ~なんてのんきに歩いてる俺の前をふらふらと通り過ぎる影。
通り過ぎた人が普通の状態ならきっと俺は気に留めてもいなかったんじゃないかなと今でも思う。
雨の中を傘も差さずにトボトボと歩く女性はだいぶ雨の中を歩いていたのか服はびしょぬれで髪からも雨の雫が滴り落ちているレベルだった。
さすがにそこまでの状態の人を見なかった事も出来ずに俺はその人を追いかけて声をかける。
「風邪…引いちゃいますよ?」
そうして声をかけると、俺の声は聞こえていた様で俯き加減だった顔をあげて俺の方を見上げる。
その人の顔を見て俺は驚いてその後に続けようとした言葉に詰まる。
確かに大人に成長はしていたけれどまだあの頃の様にあどけなさも残る顔の女性はどこからどう見ても俺の知っている【夢主名字】【夢主名前】だった。
そこからの俺は必死だった。
こんな状態の彼女をそのままにしておけず、どうにかして彼女を連れ出した。
俺に手を引かれても振りほどく事もせずにそのままついて来る彼女が心配になる。
あの頃の彼女は俺の事、きっと苦手だったはずだ。
はっきりと言われた事も態度に出された事もないけれど、何となく彼女の俺に対する温度感を感じていたから昔から分かってしまっていた。
というか、まぁ…好きな子のことだし何となく察せられたよね…と、現在の彼女を【女性名字】の家まで連れて行く過程で俺は山吹中学にいた当時のことを思い出していたのだった――。