第3章 【優しく積もる淡い恋】千石清純
「【女性名字】さん…もしかして山吹に?」
「いた。いました、実は」
「嘘…私、全然気付かなくて」
「いやいやいや、そこは気にしないでね?私今よりもっと根暗だったし、地味だったし。それに【夢主名字】さんと同じクラスになったこと1回もないんだ、私」
【女性名字】さんは私が通っていた事を知っていたのに私は気付きもしなかったなんてなんてやつだと落ち込んだが、そんな私を察してか彼女は慌てて私を励ましてくれた。
そんな彼女を見て私はこういう気遣い出来る所が素敵な人なんだよねと、彼女の事を想った。
「私の中学の時の話はいいんだ。置いておこう?」
「う、うん」
私が黙ったままでいるのが気になったのか彼女は自身の話はいいんだと私に更に強めの口調で説得させる。
その気迫に私は驚きながら何度か頷くと、私の行動を見て安心したのか彼女は落ち着いた口調に戻り話を元に戻した。
「【夢主名字】さんからしたら千石なんてさ、チャラく見えると思うんだけど」
「…気付いてるよ」
「ほんと?」
彼女の真面目な声音に合わせる様に私の声も自然と落ち着いたものへと変わる。
私の言葉に彼女は少し嬉しそうに笑った。
だからこそ私は今まで聞けなかった言葉を勇気を出して彼女に伝えてみようと思えた。
心臓が早鐘の様に鳴る。
この言葉を彼女に言ってしまったら、返答次第できっと元のあやふやな関係じゃいられないと思っていた。
だからずっと言えなかった。
怖かったんだ。今、彼女と千石くんと3人で一緒にいる時間が私の中でとても大きなものへと変わってきていたから。
みんなでいるのが楽しいと思えた。
勿論他の人と交えてたくさんの人といる時間だって楽しいものだった。
その楽しさを私に教えてくれたのは千石くんだから。
だから私はこの関係が消えてしまうのが怖かった。
でも私は段々と自身の中で肥大化していく想いを隠すのが無理になってきてしまっていたことに気付いてしまった。