第3章 【優しく積もる淡い恋】千石清純
彼女に連れられて大学のテニスコートへとやってくると、既にそこそこの人だかりが出来ていた。
何となくその人だかりの原因は分からなくもなかったけれども…。
フェンスの周りにいる可愛らしい女の子たちを横目に、私は【女性名字】さんに連れられてコートが見やすい位置へと案内された。
どうやら丁度千石くんが試合をするようでコートのフェンス越しに応援する黄色い歓声が聞こえてくる。
彼女たちの方へ軽く手をふる千石くんを見てそういう姿は中学の時から変わってないんだなと思った。
「【夢主名字】さん、あのさ」
そんな事をフェンス越しに見て思っていると、隣にいる【女性名字】さんが私に話しかける。
その声音はいつもよりトーンが低めで真面目な話だろうか?と私は彼女の方へと視線を向けた。
「私がこんな事を言うのお節介なの分かってるんだけど…」
普段の明るい彼女の表情とはうってかわって、落ち込んでいると形容するのが正解かは分からないけれど複雑な表情で私に紡ぐ言葉を探しているようだった。
彼女が何を言おうとしているか私には想像が出来ずにドキドキと次の言葉を待つ。
その時間は一瞬のことのはずなのに、妙に緊張してしまい長い時間に思えた。
「千石さ、チャラく見えるかもしれないけど良いやつなんだよね」
「…え?」
まさか千石くんの事をふられると思わずに私は間を開けて間抜けな声を出してしまう。
でもそんな私のことを気付いていないのか、【女性名字】さんは話を続けていく。
「いや、本当にお節介なのは分かってるんだけど。中学の時から見てるからつい口出ししたくなるというか」
「【女性名字】さんと千石くんって中学の時からの付き合いなの?」
「え!?そこから?!あいつ本当に全然話してないの!?」
私の言葉に驚いた【女性名字】さんは驚愕した表情で私を見ていた。
でも私が何よりも驚いたのは彼女が私と同じ中学に通っていたという事実の方だった。