第1章 【見えない角度で手を握り締め】財前光
「…はぁ」
「珍しい、食べへんの?」
「食欲のうて…」
私がそう答えると、【友人名前】ちゃんが驚いた表情で私を見とる。
そりゃあそうだ。
食べる事が好きで、特に甘いお菓子が好きやからという理由で家庭科部に入部した私が食欲ないなんてらしくなさすぎる。
私の唯一の取り柄になれるかもしれへん要素なんてお菓子作りと食べることぐらいやから。
それすらままならなへんとは重症だ。
「財前くんと話した方がええんちゃう?」
「うん…まぁ、そうやね」
彼女のアドバイスに私は力なく答える。
財前くんと話そうと何回か思いはした。
それでもテニスで忙しいだろう彼の手をあまり煩わせたく無く必要以上に連絡を取るのをやめとった。
勿論教室は同じなのだから何度か話す機会はあった。それでも何となく彼の手を煩わせたくないななんて思うと自然と彼の席へ向かうのが休み時間にはばかられとった。
というのはあくまで自分への言い訳で私はほんまはちゃんと話し合って彼に振られてしまうのが怖いのだ。
財前くんから明確に拒絶されるまではこの宙ぶらりんな状況でもええのやないだろうか?なんて思ってしまう私がいた。
ずるいなぁと自嘲ながら、ふと視線を校庭の端にあるベンチへと向ける。
そう言えばあそこは財前くんのお気に入りの場所の1つやったなと思っとると目に飛び込んできたのはそのまさに財前くん。
そんでその隣には、遠くて分からへんけど、緩くウェーブがかった髪を揺らす女の子やった。
ぎょっとした表情で私の視線が止まるから目の前におった、【友人名前】ちゃんは驚いて私の視線の先を辿り『は!?』と声をあげた。
特別に視力がええわけでもない私が、屋上から校庭におる財前くんを目ざとく見つけてしまえるという事が今は逆に悲しかった。
好きな人を見つけてしまえる能力なんて今は正直いらんなと思った。
見たくもないのに財前くんと彼女のやり取りを遠くから見つめて視線が外せなかった。
何を話してとるかなんて分からないけど、女の子の方が積極的に何かを話しかけてる。
仕草なんかで推測することしかできへんけど多分女の子らしくて可愛い子なんやないかなと思った。
あまり会話しぃひん財前くんにあんな風にグイグイ押して会話できるのは素直に羨ましいと思えたので、変な方向に落ち着いとる自分がいて驚いた。