第3章 【優しく積もる淡い恋】千石清純
あの日の記憶はそこまでしかあまり覚えていない。
千石くんの友人の【女性名字】さんの助けを借りて何とか帰宅してから暫く私は寝込んだのは覚えていた。
きっと雨に濡れて凍えていた時間が長かったものと、精神的なものの両方から来るものだったのだろうと今では思う。
そして体調が元に戻り大学生活に復帰してから千石くんと私は何かと大学内で会うことが増えて今に至るといったところだった。
そんな過去を思い出していると「【夢主名字】さん!」という声と共に私の視界の前に軽く手をふる千石くんが目に入る。
私は思考を現在へと戻し、私も彼に手を振り返すと彼は「ここ空いてる?」と聞くので頷くと「ラッキ~♪」と昔と変わらない口癖で私の座っていた席の隣へと着席する。
「いやぁ~、【夢主名字】さんと同じ講義とってたとか本当にラッキーだよね」
楽しそうにそう告げる千石くんを見て私は苦笑する。
「そうかな?私より千石くんの方がノートの取り方綺麗だと思うけど?」
「うーん、そういう意味での発言じゃないんだけどね」
私の言葉に今度は千石くんが苦笑する番だった。
何となく彼の言いたい意味は察せないわけではなかったけれど、中学の時の彼の事を知っているから私は気付かないふりをした。
彼にはとても感謝している。
再会してから1年近く私と一緒にいてくれたし、彼の友達もたくさん紹介してもらった。
新しい大学生活をするにあたり、まだ周りの環境に馴染みきれていなかった私は顔の広い彼の交友関係にとても感謝していた。
今では知り合いも増えて、充実した生活を送れていた。
こんな風に過ごすことが出来なければきっとあの雨の日を引きずったままの私だっただろう。