第2章 【人気者の君に妬く】丸井ブン太
「どうかしたの?」
「兄ちゃんが回覧板持って行けって」
不安そうな声が耳に響く。
なんでブン太は幼い弟くんに頼んだのだろうかと内心思ったが、昨日の今日では確かに喋りにくいだろうと私は思い至る。
そもそも私も今はまだブン太に会いたくないのだから。
きっと向こうも気まずく思ったんだろうなと察した。
「ポストに入れておいて貰えるかな?」
ブン太本人でなくても私も今の酷い顔を人に晒したいとは思えずに私は弟くんにそうお願いした。
いつもは素直に頷いてくれるのに彼からの返事がインターホン越しになくて私は困ってしまう。
「…そのね、僕の身長だと届きにくくて」
「あ」
弟くんが申し訳なさそうな声が響く。
彼に言われるまで失念していた。
そこそこ高い位置にある家のポストに彼の身長で大きめの回覧板を入れるのには危ない。
私はそこまで思考が回っていなかったのかと自身の不注意さに呆れた。
「分かった、今出るね」
そう言って私はインターホンを切り、急いで玄関を開けた。
でもそこにはインターホンで会話していた弟くんはいなくなっていて変わりにブン太が立っていた。
私はブン太に気が付いて勢いよく扉を閉めようとしたが、いつの間にか玄関の扉の間に足を突っ込まれていて玄関が閉まらなくなっていた。
嘘でしょと思って顔を下に向けていたのを上げて見ればブン太と目が合う。
そしてブン太はニヤリと笑って勝利宣言をした。
「はい、俺の勝ち。天才的ぃ~!」
「弟くん使うなんて卑怯な手、使わないでよ!」
「そうじゃねぇとお前、俺が訪ねてきても家の扉開けねぇだろぃ」
抗議の言葉を述べても正論を言い返されてしまい私は何も言い返せなくなってしまう。
そしてその私の僅かな隙きをブン太は見逃さなかった。
私の手が緩んだのを見極めて思いっきり玄関の扉を開けた。
こうなってしまえば追い返す事も不可能だと私は諦めてブン太を家に大人しく入れた。