第2章 【人気者の君に妬く】丸井ブン太
「あの、丸井先輩が【夢主名前】先輩を待ってるようでしたら、これお願いしても良いですか?」
「ん?」
【女性名字】がマフィンを自分の鞄にしまった後で部室のテーブルの上に置いてあったドリンクボトルと、部室の鍵を俺の目の前に移動させてきた。
俺は鍵の方は分かるが、ドリンクボトルが分からなくて首をひねる。
すると俺の疑問を察したのか【女性名字】は俺にこのドリンクボトルの正体を明かしてくれた。
「これ走り終わったら喉乾くかと思って【夢主名前】先輩用に作ったんです。でも私からより丸井先輩からの方が喜ぶと思うんで」
そう言って【女性名字】は笑った。
俺からより、【女性名字】からの方があいつ喜びそうだけどなと思いつつも【夢主名前】を待つ口実が増えることは俺にとっては逆に有り難い申し出だったから「了解」と返事した。
俺の返事に安心したのか【女性名字】は笑顔で「お疲れ様でした」と告げて部室を後にする。
バタンと部室の扉が閉まるのを見て俺は【夢主名前】の足の速さと体力的に部室に戻ってくるまであと数十分はかかりそうだなと思った。
***
「ビックリした。待っててくれたの?」
暫く大人しく部室で待っていると、【夢主名前】が部室の扉を勢いよく開いて俺を見て驚きの声をあげた。
どうやら誰も残っていないと思っていたようだ。
ずっと走っていた影響か頬が赤く染まり、息も少し乱れていた。
それを落ち着けるように部室の椅子に座る。
俺とは向き合う形になった。
【夢主名前】は「暑いわ~」と言いながら自分の服の胸元をパタパタと思い切り仰ぐ。
俺は目の前にいるから何の問題も無いが、横に座ってたら【夢主名前】の胸元が見えるぐらいの大きな仰ぎ様だ。
そういう行動がこいつ無防備なんだよなと俺はこっそりため息をついた。
「俺がいたのは、たまたま。家庭科室で調理部の余ったマフィン貰いに行ってきた。食べるだろぃ?」
本当は【夢主名前】を待ってたくせに気恥ずかしくて別の理由を告げる。
最初は俺が待ってた事に嬉しそうな表情をしていた【夢主名前】は俺が自分の用事で残ってたと聞いて少しだけむくれてた。
その表情も幼い頃から変わってねぇなと思って、少し笑う。