第1章 【見えない角度で手を握り締め】財前光
「…ふーん。考え事してて間違えるとかアホやん」
「私もそう思うわ」
家庭科室の後始末を全部終えた時にはもうほぼ日は沈んでいた。
あー、やってもうたななんて思ってた時に丁度良く私の携帯が鳴る。
確認するとそれは財前くんからのメールで『家庭科室まだ電気付いてるけどいるん?』というメールやった。
私が『後始末してたら遅くなったわ』と返すと『もう少しで帰れるわ』と短い返信が直ぐ来る。
私はその言葉で一緒に帰れるのだと分かると、緩みきった頬を引き締めなければと思いながらも、一緒に帰るの楽しみだなと急いで家庭科室の後片付けを終わらせた。
職員室に鍵を返して慌てて校舎から出ると既に財前くんは正門の所にいてくれた。
ただ先輩たちに取り囲まれとったので、どうしようかと様子を伺っとると忍足先輩が私に気付いて手を振ってくれる。
お辞儀をしてからその輪に向かって駆け出した私を先輩たちは暖かく迎え入れてくれた。
ただ先輩たちに絡まれてた財前くんの機嫌はあまり良くなさそうだなと彼を見て私は思った。
先輩たちに散々からかわれてから2人で歩き出した私達の空気は最初はあまりよくなかったけれど、私の部活中の珍事を面白おかしく話すと財前くんを取り囲む空気が少し穏やかになってくれたので私は安心する。
その代りに彼の中で私はアホな女という認識が深まったのやろうなと思うと少しだけ悲しくもなったけれど。
「何考えてたん」
「え」