第2章 【人気者の君に妬く】丸井ブン太
「やぁ、【夢主名前】待ったかい?」
「え?」
聞き覚えのある声に驚いて、声の方を見れば部活のジャージを着ている幸村くんが私の方へと歩いてきていた。
もう部活の時間になってしまっているという事なのだろう。
病み上がりの様な彼をこんな場所までこさせてしまって申し訳ない気持ちになる。
「ごめん、【夢主名前】はこれから部活なんだ」
幸村くんが鮮やかに私と男子の間に入って来る。
そしてエスコートするかのように鮮やかに私の肩に手を置くと自然に自身の後ろに私を隠すように立ってくれる。
その見事なまでの鮮やかな行動に私も目の前にいる彼も呆然として言葉が出なかった。
「え、あ、いや…その」
ただ私よりは先に彼は正気に戻ったらしく、しどろもどろに言葉を紡ごうとする。
さっきまでの威勢は何処に行ったのか私の目の前にいる男子は幸村くんの威圧にタジタジな様だった。
幸村くんの背に阻まれているから幸村くんの表情は分からないが、なんとなく背中越しでも有無を言わさないオーラをまとっていたのは分かった。
「悪いね。用がないなら俺らは行くよ」
そう目の前の彼に告げて、幸村くんは私の手を取って歩き出す。
咄嗟に引っ張られて転けそうになってしまったが私は何とか幸村くんに連れられてこの場から離れることが出来て安堵したのだった。
「あの…ごめん、幸村くん」
2人でテニスコートの方へと歩き出して、先程の場所から随分離れてから私は幸村くんに謝罪をした。
この場所まで来れば先程の男子はもういないだろうとふんだからだ。
「俺の方こそ勝手に割って入って悪い」
「ううん。助かったよ。どうしたら良いか分からなくて困ってたから」
私がそう言うと幸村くんが笑う。
何となくあの場にあった空気により私は上手い言い回しも思いつかず離脱することが出来なかった。
自分でもあんなにアドリブに弱かったり、相手がグイグイくるタイプだと押しに弱いのだと初めて知った。
今まであんな風なタイプの人はそう言えば身の回りにいなかったなと思った。