第2章 【人気者の君に妬く】丸井ブン太
「今度は誰?」
「ブン太」
私がそうサラッと答えるとさっきまで笑っていた【友人名前】ちゃんが真顔になる。
そして真面目な声音で小さく私にだけ聞こえるようにこう言うのだ。
「よく耐えられるね」
そのお決まりの台詞も何度目だろうかと私は苦笑した。
私の幼馴染の丸井ブン太は立海テニス部レギュラーを務めている。
顔も悪くない造形だし、性格は気さく、テニスの腕もいい、男女共に友達も多い方だしモテる要素しかほぼない。
昔から隣りにいるからよく分かる。
ブン太は本当に申し分なくいい男の子だ。
もう何年も片想いしているからこそ私は年々と彼の事を好きになる女の子達を傍で見てきていた。
だから差し入れぐらいでは特に何も思わなくなってしまっていた。
勿論最初の頃はモヤモヤしていた時期もある。
でも、こうもずっと続けば差し入れぐらいでは何とも思わなくなるものなのかなぁなんて思った。
「慣れ…かな?」
「慣れねぇ…?」
私の言葉に【友人名前】ちゃんは納得がいっていない様だった。
もしかして普通は慣れないものなのだろうか?と私は自問自答してみたが私自身の答えは『慣れてしまった』と出ているので特に分からなかった。
「人気者の幼馴染を持った宿命…ってやつかな」
「カッコつけて言うと笑える」
「え、逆に酷くない、私に対して」
【友人名前】ちゃんと私は互いに顔を見合わせる。
そして同時に吹き出した。
こんな風に私達は互いに軽口を叩きあって笑った。
これが私の日常。
立海テニス部のマネージャーとして過ごす日常。
たまに、ブン太と遊んだり一緒に帰ったりはするけれど、それは幼馴染としてたまたま彼の隣に未だに置いてもらえてるだけの関係。
幼い時から彼の事が好きだった。
でも今の心地よい関係を壊すことが怖くて、それなら彼の隣に女の子が立つまではこのままでいいかな…なんて意気地なしな私はそう思って過ごしていた。
今日も人気者でカッコいい彼の御眼鏡に適うであろう将来の彼女の女の子に妬いてしまう。
そんなみっともない私を知られたくなくて私は何でも無いふりをして過ごす。
それが私の日常だった――。
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