第1章 【見えない角度で手を握り締め】財前光
「あの…財前くん」
「なんや?」
私が声を掛けると普通に返事を返してくれてホッとした。
何も話してもくれなかったらどないしようと危惧しとったがそこまで怒らせとったわけではなかったと安堵する。
「ここの本棚、乱雑過ぎて時間かかりそうやし部活行っても大丈夫だよ?」
正直一緒に探してくれると有難かったけど、このままでは時間がかかってしまいそうだと私は判断した。
彼の部活を邪魔したくない一心で私は財前くんに気兼ねなく部活に行って欲しいと思いそう告げる。
せやけど彼は私の予想外の返事が返ってきた。
「……一緒におるの嫌なん?」
「え?」
驚いて振り返るとそこにはしらん間に私の背後にまで来とった財前くんと目が合う。
思っとったよりも近くにいた事に驚いて後ずさりしてしまうが、私の背後は直ぐに本棚で背中がドンっとぶつかってしまう。
その瞬間に私の顔の脇に財前くんの手がバンっと置かれる。
彼の手によって押された本が奥に引っ込むのが横目で分かった。
「あ…あの」
驚いてしまって私はうまく言葉にする事が出来んかった。
何でこないな事になっとるのか、さっきまで繋いでくれとった手は何やったのか、今日の昼休みに見た光景はなんやったのか…。
聞きたいことは山程あるのに…それなのに全然言葉がうまくまとまってくれへん。
ただただ黙って彼を見ることしか出来んかった。
「…悪かった」
「え?」
先に言葉を発したのは財前くんの方やった。
何で謝罪されているのか分からず私は呆けてしまう。
「謙也さんから…メール着たわ。昼休みのこと」
「あ」
忍足先輩が気ぃ遣ってくれたのだろうと直ぐ様分かった。
屋上で財前くんの事を見た時も少しだけ怒っとる様な声音やったし、私を慰めてくれた先輩達を思い出すと直ぐにあの時にメールをしてくれたのやろうなと察した。
何から何までお世話になりっぱなしで申し訳なく思った。