第1章 桜の想い出
松陽は自室へ戻る前に、銀時が眠る部屋を覗き、苦笑した。
暖かくなったとはいえ、布団を蹴り飛ばしてお腹がむき出しでは、風邪をひいてしまうだろう。
松陽はそっと近付き、布団をかけ直してやる。
健やかな寝息を立て続ける銀時をしばし見つめ、静かに自室へ戻った。
「小太郎と晋助は、ちゃんと布団かけて…ますね。あの2人なら」
そう言って少し笑い、机の上に開いたままになっていた日記に目をやる。
『今日、あの桜が初めて咲き、銀時と小太郎と晋助と一緒に見る事が出来ました。』
筆を取り、書き足していく。
『どうか、あの子達の未来が、満開の桜のように美しいものでありますように。しかし、決して儚く散りゆかんように。
もし、その歩む道が辛く凍えるものになった時は、あの桜の下で花見酒を呑むという、約束にもならない約束が、少しでも暖かい布団のようになれれば良いのですが』
筆を置いた松陽は、苦笑した。
「少し過保護ですかね。まぁ、良いでしょう。そうだ、明日、桜の花言葉でも教えてやりましょうかね」
そう言って、灯りを消した。