第1章 私の中、私は生きる
「私も余り時間が無いものでして。最後に、一つだけ訊いて良いかしら? 貴女は最期、あの終わり方で後悔はしていないの? もう少し、少しでも貴女が違ったとしたのなら、貴女が『本当』に望んでいた結果になっていたと思うわ。でも、もう貴女のやり方に何を言う事は出来ないけれどね...」
ドレスの少女は、フリルを揺らしゆっくり私の元に来て、静かに私の頬に手を添えた。それは、別に温かいわけでも無く、頬に違和感を感じる程度。私を輝く瞳で見つめる彼女の言葉に、深く考え込むことなどはしなかった。だって、それを考えると大事な輝く思い出が、闇に吸い込まれてしまうような気がしたから、私はそれを恐れた。
「あれが、私の出した答えです。後悔はありません」
そう言って、彼女の手を甲で優しく払う。少女はつまらなそうに軽く顔を落とすと、顔を上げて笑みを見せて、光の方へと消えていった。すると、先程までの明るさが嘘だったみたいに、私の元から光が走り去って行った。一寸先の物さえ認識する事が出来ない。私は、突然の事に心の余裕が無くなり、その隙間を埋めるように恐怖感がじりじりと襲ってくる。感じるのは吹き抜ける風の音、地に足付ける感覚だけ。私は何もする事が出来ずに座る事を拒み、只呆然と立ち尽くしていた。...私は、これからどうすればいいのか。
あれから、どのくらいの時間を迷い考えていただろう。しかし、それを確かめる手段はもう無いんだった。長いこと立っていたから、脚に疲れが溜まってきていた。そんな頃に、何処からか聞こえる扉が開く音を、しっかりと耳が聞き取った。
「すみません、待たせちゃいましたね。こっちです」
雲が晴れたように、私は咄嗟に顔を上げる。すると、視線の先には暖色の光が廊下に差し込んでいた。もう少し上を見上げると、扉を最小限開いて顔を覗き込ませる女性の姿が視認出来た。声の主は、ひょこっと扉から跳び上がって廊下に出てくると、私の手を優しく握って部屋まで引っ張ってくれる。でも、脚を急に動かした為に、関節がじんじんと響いて痛んだ。