第1章 おやすみ
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街の喧騒をBGMに歩く。片手に持った紙袋ががさがさと音を立てる。
「こんなん集めてどうするんだ?」
紙袋の中を覗くとそこには蠢くメタリックなミミズもどきがいた。こいつは所謂ロボットだ。
用途はよくわからない。フリーマーケットで売りに出されていた安物のおもちゃだ。
あ、もしかしたら犬やねこに使うおもちゃかも。
暫く歩いて路地を曲がるとこじんまりとしたレトロな店が現れる。俺の家だ。
今どき珍しい手動のガラス戸を開け店内に入ると、髭を蓄えた老人──否、店長がおお、と声を上げた。
「遅かったじゃないか」
「そう?あ、はい。これ頼まれてたもの売ってたよ」
「あったか!助かった。これで続きに取りかかれる」
店長は紙袋を持って、店の奥の作業場に引っ込んだ。
この店は骨董品の展示室のような場所だ。
店内には古臭い電子機器が並んでいる。全て売り物だが、ネットでの取引が主流の中、この店を知る者もそう居らず商品が買われることは滅多に無い。
この店の商品で俺がお勧めしたいのは、このパカパカと開閉する通信端末。当時は携帯電話だとか、ガラケーって呼ばれてた物だ。
この開閉する時のカチッという音が耳に心地いい。
残念ながら起動はできない。バッテリーがいかれてしまっているらしい。
それから某社が昔手がけていたスマートフォンシリーズ。
わざわざディスプレイを搭載した端末を持ち歩く必要のない時代だが、これは今でもファンの間で根強い人気がある。
俺もスマートフォンは一台持っている。ぼろぼろのかなり使い込んでいたと思われる品物だ。
壊れていて電源は入らないが、店長に持ってろと言われたから何となくいつも鞄に入れてある。
電子機器ってやつは電源が入らなきゃ文鎮も同然だけど。
奥の作業場から俺を呼ぶ声がした。
「さっさと行かないと遅刻するぞ!」
「はーい」
誰かさんがおつかいなんか頼むからでしょ。
心の中でぼやいて溜息を零す。
「じゃ、いってきます!」
「はいよ。いってらっしゃい」
店長の嗄れた声に見送られ、再び外に繰り出した。右手のウェアラブル端末に触れると宙に時刻が表示される。
まずいな。急がないと本当に遅刻だ。
路地を駆け、駅に向かった。